過去ログ - 勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」
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875:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします[saga]
2016/01/11(月) 23:42:22.35 ID:50uoFRyB0
勇者「魔王の軍勢は強力です」

 魔王討伐のための最終作戦―――その説明を求められた勇者が室内にいる者の顔を見回しながら口を開く。

勇者「はっきりと申し上げて、魔王軍の中でも上位の魔物には、どれほど精霊の加護を高めようと人の身で太刀打ちするのは困難でしょう。いわんやそのトップたる魔王をや、です」

 王の間に控えていた兵士たちを始め、場内にどよめきが走った。

勇者「魔王の側近である『獣王』という魔物を相手にして、私はそれを痛感しました。無力を嘆き、それから少しばかり力をつけた今もなお、かの『獣王』を独力で撃破することは到底不可能であると断言できます」

 勇者の言葉に場内にいる者は不安に駆られ、混乱に満ち、どよめきはなお大きくなっていく。

勇者「しかしながら、私はその獣王の討伐に成功しました」

 おお! と聴衆から声が上がった。
 その場に居る者を代表し、武王が勇者に向かって口を開く。

武王「どうやって?」

勇者「エルフの秘術、『宝術』。特殊な結界陣であるソレは、領域内に居るあらゆる魔物の力を半減させ、精霊の加護を受ける我らの力を倍増させる力を持つ」

武王「エルフ? エルフだと? まさか、実在するというのか、あの伝説の存在が」

勇者「入って来てくれ」

 ギィ、と王の間へ続く重厚な扉が開かれる。
 勇者の呼びかけに応じて入って来たのは、長い金髪をポニーテールで纏めた、見目麗しい少女だった。
 動きやすさを追求した薄手のジャケット、太ももが大きく露出したショートパンツ。
 その恰好から活発な気性の少女であることはうかがい知れる。
 だが、それだけだ。
 それ以外に特筆すべき点はない。
 この少女が一体何だと言うのか。

勇者「エルフ少女。変化の杖の効果を解いてくれ」

エルフ少女「ん。りょーかい」

 エルフ少女と呼ばれた少女の体から煙が噴き出した。
 その摩訶不思議な現象に武王を始め、その場に居る者は皆面食らった。
 噴き出す煙が勢いを無くし、皆、怖々と少女の体を注視する。
 一見して、特に変わった点は見受けられない。
 何人もの人間が首をひねる中、誰かが「あっ!」と声を上げた。
 その視線の先で、ぴょこん、と少女の長く尖った耳が揺れていた。

武王「なんと……! 本当に実在していたのか…!」

 武王は目を大きく見開いていた。
 エルフ少女のその特異な容姿もさることながら、真に武王を信用させたのはエルフ少女の正体を隠匿していた『変化の杖』なる神秘の存在であった。

武王「エルフ少女と申されたか。其方が勇者の作戦に協力してくれると?」

エルフ少女「人間共と馴れ合うつもりは毛頭ないけど、勇者には返しても返しきれない恩がある。魔王軍という共通の敵を討ち果たすためというなら、手を貸そう」

 凛とした表情でエルフ少女は言い放つ。
 いつもの彼女と余りに違う雰囲気であるのは、あくまでエルフ族の代表としての立場を貫いている故か。

武王「話が見えてきたぞ。その『宝術』とやらを使って彼我の戦力差を埋めようというわけだな?」

勇者「ご明察の通りです。しかしこの宝術も万能ではない。その欠点の一つに、効果範囲がそれ程大きくないという事が挙げられます。エルフ少女独力で発動した場合、例えるなら小さな集落をやっと覆えるほどの範囲にしか効果を発揮できない」

武王「では、どうする。……そうか、読めたぞ。エルフ少女を何とか魔王城内に潜入させ、そこで宝術を発動させるのだな? 我らに協力してほしい事とは、その際のエルフ少女の護衛というわけだ」

勇者「……少し違います。宝術のもう一つの欠点、それは発動まで術者であるエルフ少女が全くの無防備になってしまう点です。深く、深く集中しなければならないため、術の発動中のエルフ少女は周囲の状況に全く頓着出来ない。そんな状態の彼女を、敵地のど真ん中で守り切ることは難しいでしょう」

 ごくりと唾を飲み込み、武王は三度、勇者に問うた。

武王「では、どうする?」

勇者「宝術の効果範囲は小さい――――しかしそれはエルフ少女が『独力で』術を展開した場合です。術を補佐する人材が居れば、そして効果を及ぼしたい範囲に前もって陣を描くなどの下準備をすれば、その効果範囲を広げることが出来る」



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