11: ◆8HmEy52dzA[saga]
2014/11/21(金) 22:16:11.05 ID:kVCj7/h70
008
吸血鬼は不死身だ。
僕は限りなく人間に近い状態だから、と僅かな希望を抱いてはいたけれど。
それでも、やっぱり儚い希望に過ぎなかったらしい。
「吸血鬼の力は強過ぎる。吸血鬼の血は猛毒じゃ。人間の血を水に喩えると、それこそプール一杯の水に垂らしただけでも、致死量に至らしめる程の濃度を持つ」
忍がいつしか影から抜け出し、背中合わせに言葉を紡ぐ。
「……儂を消しても良いのじゃぞ」
忍を殺せば、僕は正真正銘の人間に戻れる。
だがそれだけは許されない。僕と忍の関係は、言わば生きる為の罪滅ぼしだ。
死にかけの鬼に首を差し出した僕と。
自ら死を望んだ哀れな鬼の。
惨めに格好悪く恥を晒し生きることによる、終わることのない、贖罪だ。
「もう充分じゃ。お前様とおった数年は、悪くはなかった」
忍がいくらそう言ってくれたところで、これだけは捻じ曲げる訳には行かない。
「それこそ、欺瞞だとかつまらん意地というやつではないのかの?」
そうかも知れない。
けれど、忍の存在を消して僕だけ幸せに生きて行くなんて事は、文字通り死んでも不可能だ。
意地を張っている訳でも何でもないのだが、それをしたら僕が僕ではなくなってしまう。
そもそも一度死んだ人間が生を謳歌しようとしている事すら、烏滸がましいと言うのに。
「誰も彼もが幸せになるハッピーエンドなぞ、今更求めている訳ではあるまいな?」
当たり前だ。
そんなものは初めて死んだあの日。
高校生最後の春休み。
あの時に、全てを諦めるつもりでこうなることを望んだのだから。
誰かに非があるとするのならば、それは間違いなく、化物の分際で一人前に幸せなんてものを掴もうとした、僕だ。
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