過去ログ - 阿良々木暦「こよみヒストリー」
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14: ◆8HmEy52dzA[saga]
2014/11/21(金) 22:23:30.62 ID:kVCj7/h70



012



僕がひたぎの下を逃げ出し、全国を当てもなく放浪し始めてから数ヶ月が経った。

貯金から何から全て置いてきたのでその日暮らしの生活だが、平和な日本においては案外なんとかなるものだ。

……まあ、ホームレスの真似事どころか実際そうなので、少々惨めではあるけれど。

故郷より遠く離れた公園のベンチで何をするでもなく呆としていると、隣に座る人物がいた。

「や、阿良々木くん。ご無沙汰だね」

いつか現れるとは思っていたが、案外早かったな。

「きみが何を考え、何を思ってここにいるのかは知らない。でも、頼まれちゃってね」

頼まれた、と忍野は言った。

恐らくは羽川か、ひたぎあたりだろう。
探偵や警察に捜索願いを出したところで、効果は薄いと考えたと思われる。

「ツンデレちゃんとケンカしたんだって?羨ましいよ」

忍野は煙草をくわえて相変わらずの、軽薄で人の癇に障る笑顔を浮かべる。

お前に僕の何がわかるんだよ、と激昂しそうになる感情を諌める。

ここで忍野に八つ当たりをした所で、何が変わる訳でもない。

「相変わらずだねぇ阿良々木くんは。相変わらずすぎてぶん殴ってやりたいよ」

空を仰いで手を翳す忍野。

こうしてホームレス風の二人がベンチに座っている光景は、本人である僕ですら滑稽だと思うのに、傍から見たらどう映っているのだろうか。

「ケンカ出来る相手がいるのは喜ばしことだ。軒並みな言葉しか言えないけどさ、ケンカ出来るんなら、してみたらいいんじゃないの?」

まだ喧嘩の出来る相手がいるだけきみは幸せ者だ。

そう言われている気がした。

天涯孤独の忍野としては、どのような想いでその言葉を紡いだのか。

人ではない僕でも、まだ、人と繋がっている。

それを人は絆だとか、縁だとか呼ぶんだ。

「ま、どうしようもなかったら僕のところにおいで。その時はきっちり『助けて』あげるからさ」

結局火を点けなかった煙草をゴミ箱に捨てると、忍野は別れの言葉も言わずに去って行った。

忍野の言いたかったことは、なんとなくだが理解は出来た。

出来る限り人間として足掻け、と。

それも叶わないならば、怪異として殺してやる、と。

今思えば、頼まれたと言うのも恐らくは嘘だろう。

あの風来坊の居場所を特定して、更に頼み事をするのはあの羽川でも心底憔悴する程の大仕事だったのだ。

ああ、まったく。

本当に、お節介な奴だ。





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