10:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/11/26(水) 23:54:58.79 ID:incPBixuo
今の状況は志村さんの時よりもっと頼りない。額面どおりに受け取れば礼儀正しい女の
子が傘に入れてもらったお礼を改めてしたくて僕を待っていただけのことじゃないか。
そう考えようと必死になった僕だけど、一度胸の中に湧き上がった期待はなかなか理性
の指示するとおりに収まってはくれなかった。
「そう言えばお名前を聞いていなかったですね」
少女が言った。「あたしは、鈴木ナオと言います。富士峰女学院の中学二年生です」
それでは彼女は僕の高校より一つ先の駅前にある学校に通っていたのだ。確か富士峰は
中高一貫校の女子校だった。
「僕は結城ナオト。明徳高校の一年だよ」
僕も名乗った。でもこれで彼女の名前を知ることができた。
「あの」
再び彼女が言った。これまで僕とは違って冷静に話していた彼女は、少し紅潮した表情
で僕の方を見上げた。
「図々しいお願いですけど、よかったらメアドとか連絡先を教えてもらっていいですか」
女の子に耐性のない僕にとってそれはとどめの一撃といってもよかった。自分への警鐘
とか女さんの時の教訓とかが僕の頭の中から吹っ飛んだ。
僕と彼女はメアドと携帯の番号を交換した。その事務的な作業が終わると少しだけ僕た
ちの間に沈黙が訪れた。でもそれは決して気まずいものではなかった。
「そろそろ行きませんか?」
ナオが僕に言った。相変わらず僕に向かって微笑みながら。
「そうだね。同じ方向だし途中まで一緒に」
思わず言いかけてしまった言葉に僕は後悔したため、僕の言葉は語尾が曖昧なままで終
ってしまった。
でもナオは僕の言葉をしっかりと拾ってくれた。
「うん、そうですね。同じ方向だし、ナオトさんとまだお話もしたいし一緒に行きましょ
う」
僕たちは目を合わせて期せずしてお互いに微笑みあった。
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