過去ログ - ビッチ(改)
1- 20
2:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/11/26(水) 23:40:17.35 ID:incPBixuo

第一部



 僕はその日の朝、普段より早く起き過ぎってしまったのだった。

 母さんを起こしたくない。僕は反射的にそう思って、爪先立って僕と妹の部屋が並ん
でいる二階の部屋を通って階下に降りようとした。この時の僕は熱いコーヒーを飲みた
かった。冬の身が凍るような早朝のことだった。

 妹の部屋の前を通り過ぎようとした時、その部屋のドアが少し開いていることに 気づ
いた。

 何気なくドアの向こうを覗くと妹がだらしない姿勢でベッドの上にしどけなく横にな
っている姿が目に入った。妹は剥き出しの腕を伸ばしたまま仰向けに寝ていて、普段は
うざいくらいに口うるさくやかましいことが嘘のような子どもっぽい表情だった。

 妹の部屋から暖房の熱気が漏れ出していた。またエアコンを付けっぱなしで寝たのだ
ろう。こいつは何をするにもこういう具合にだらしない。

 暖房のせいで暑かったのか妹はTシャツとパンツしか身にまとっていなかった。子ど
もっぽいあどけない表情を裏切るように、成長中の妹の悩ましい肢体が目に入ったけど、
僕は慌てて目を逸らした。

 こいつの体を見つめているところなんかをこいつに見られたらどうなるのかは僕にはよ
くわかっていた。以前にも同じようなことがあったからだ。

 こいつはわざとらしい悲鳴をできる限りの声量でわめきたて、何事かと駆けつける父
さんと母さんに対して「お兄ちゃんがあたしの裸を覗いたの」と騒ぎ立てて訴えるの
だ。

 そんな騒ぎは二度とはごめんだった。僕は妹から目を逸らして妹の部屋を通り過ぎて
階下に降りた。

 思ったとおりこの時間の朝のキッチンにはいつもは家中で一番早く起きる母さんの姿
はなかった。

 僕はやかんに少しだけ水を入れてコンロに火をつけた。このくらいの量の水ならすぐ
に沸騰するだろう。

 早起きしてしまったせいで登校するまでにはまだ時間が十分あった。何でこの日だけ
早起きしてしまったのかはわからないけど、その恩恵には十分にあずかれそうだった。

 僕は父さんのことも母さんのことも嫌いではない。この二人から高校生活のことや部
活のこととかを質問されながら朝食の時間を過ごすのも悪くはない。

 ただし、それは妹が一緒に食卓についていなければだ。あいつがいると、僕のこの間
のテストの成績を誉めようとしてくれた母さんは口をつぐみ、部活のことを楽しそうに
聞いてくれている父さんまで黙ってしまう。

 要するに妹がいると父さんと母さんは僕とまともに会話できなくなってしまうのだ。

 あいつはこういう時いつも僕の話に水をさす。

「お兄ちゃん(と両親の前では昔のように妹は僕のことを呼んでいた。二人きりのとき
はあんたと呼ぶか人称さえないことが普通だったけど)のことばっか話すよね、母さん
たちは。どうせあたしはお兄ちゃんみたいないい子ちゃんじゃないし成績もよくないよ。
でもだからといってあたしのこと無視しなくてもいいじゃない」

 こうなると父さんと母さんは気まずそうに僕から目を逸らして黙ってしまうのだ。

 だからせっかくたまに早く目を覚ました朝なんだし、朝食抜きでお湯が沸いたらコー
ヒーだけ飲んでさっさと高校にでかけてしまおう。今日は友人の渋沢がコンプしたゲーム
ソフトを貸してくれることになっていたから、DSを忘れずに持って行こう。

 そう考えると僕は早い時間にも関らず少し焦ってきた。誰も起きる前にメモを残して
家を出なければならない。メモには用事があるから早めに登校しますと書いておけばい
いだろう。

 そこまで考えたときにやかんがピーッと鳴ってお湯が沸いたことを告げた。

 僕はインスタントコーヒーの粉を入れたマグカップにお湯を注ぎ、リビングのソファ
に座ってテレビを点けた。早朝の天気予報が画面に映し出される。

 今日は突然集中的に雨が降ることがあるらしい。窓の外の冬の朝の様子からは降雨の
予感は少しも感じられないけど、天気予報で気象庁がそう言っている以上傘を用意した
方がよさそうだ。


<<前のレス[*]次のレス[#]>>
568Res/1282.16 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice