22:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2014/12/03(水) 22:43:39.75 ID:dm2TomSio
「それにしても、何だか不思議ですね。まさかこうして苗木君と仲良く話せる日が来るなんて、思ってもいませんでしたから……本当、嬉しいです」
「ぼ、僕もだよ。入学前から舞園さんと仲良くなれたらいいなって思ってたけど、まさかこんなすぐになれるなんて……」
「そう思ってくれてたんですか? ありがとう御座います! ……でも苗木君、どうして中学の時は話しかけてくれなかったんですか? それ所か、目だってあんまり合わせてくれませんでしたし……」
「そ、それはほら、舞園さんみたいな人気者に話しかける勇気がなくて……。だからって、あんまりジロジロ見る訳にもいかなかったし……」
正しく根黒六中のアイドルだった舞園さんは、いつだってたくさんの生徒達に囲まれていた。そんな中僕が声をかけるだなんて、そんなの到底無理な――
「……って、あれ? 舞園さん、どうして知ってるの? 僕が目もあんまり合わせなかったって……」
「私が、苗木君の事をちょくちょく見ていたからですよ」
「……え?」
舞園さん、今なんて……? 聞き間違いじゃなければ、僕の事をちょくちょく見てた、って……。
「実は……中学の時はずっと、苗木君に話しかける機会を窺っていたんです」
「僕に……話しかける機会を……?」
「はい。……でも、私の周りにいつも人がいた所為で、結局話せず終いで卒業……。それがずっと心残りだったんです」
舞園さんの口から明かされた、衝撃的な事実。……全然、気づかなかった。まさか、舞園さんが僕の事を見てくれてたなんて……その上、話しかけようともしてくれてたなんて。
けど、そうか。中学の時に不思議と目が合う事が多かったのは、そう言う事だったのか……。
でも――。
「な、何で僕の事をそんなに気に掛けてくれてたの? あの頃は僕と舞園さん、接点なんてまるでなかったのに……」
クラスメイトでもないただの一生徒に過ぎなかった僕を、一体どうして……。気になってそう尋ねると、舞園さんは思い返すような表情で話し始めた。
「……中学一年生の時、学校の池に大きな鳥が迷い込んで来ましたよね?」
「え? あ……うん。えっと、確か鶴だったよね?」
あったな、そんな事も。雀みたいな小鳥ならともかく、ただでさえ珍しい鶴があんな所に現れたもんだから、学校全体が騒然としてたっけ。
あの日はずっと、その話題で持ち切りになってたんだよな。あれももう、今から四年も前の事なのか……懐かしいや。
「はい。すごかったですよね、だって鶴ですもんね。余りにも珍しくて、学校中で注目の的になっていました。とは言え、池に迷い込んだまま放置する訳にはいかなくて……でもあんまり大きな鳥だから、先生達ですら手に負えず、何も出来ませんでした。それを……」
舞園さんはそこで一瞬だけ間を空けると……これまで以上にまっすぐに、僕の目を見つめ始めた。
「……苗木君が逃がしてあげたんですよね? あの鶴を、学校の裏の森まで……」
「た、確かにそうだけど……でもあれは、飼育委員だった所為で無理矢理やらされただけで……」
先生達ですら手を拱いてたのに、どうして生徒が……それも一年生の僕がやらないといけないんだって、頼まれた当時すごく嘆いたのを覚えてる。
『普段から人一倍動物の世話をしてあげてるから』って、学校で飼ってる動物達と鶴じゃ訳が違うのに……って。
だけど断る訳にもいかなかったし、結局昼休みを使って裏の森まで逃がす事になったんだ。
靴下と靴を脱いで、大勢いるギャラリーの視線を一重に浴びながら、池にいる鶴にそーっと近づいて行って……そして、両腕で抱き締めるように捕まえて。
鶴は最初の内は暴れに暴れてたけど、とにかく必死に宥めていたらその内大人しくなったんだよな。それから抱き抱えたまま裏の森まで歩いて行って、そこで僕は鶴を解放してあげた。
ほんの少しの間その場をうろちょろしてたけど、やがて一度僕の方に振り向いてから、鶴は空に向かって羽ばたいて行った。……と、それがあの日の一部始終だ。
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