過去ログ - ほむら「向日葵と傷」
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112: ◆FLVUV.9phY[saga]
2014/12/06(土) 21:29:12.20 ID:rQSpFBW+o

 涙を抑えるために噛みしめていた奥歯の奥から吐瀉物がせり上がるのを感じとり、
何とかこらえようと試みるも堪え方もよくわからずに涙と一緒に胃の中身を窪んだ路面にぶちまける。

 びちゃびちゃびちゃ、と耳障りな水音を立てて対して膨れてもいない胃の中が空っぽになっていく。

「ぐげぇ、ぅぐ。かはっ、ごほっ。うぅ、ぅぅ」

 自分が吐き出した胃液の酸い臭いがまどかの気持ちを一層曇らせ、あっという間に目元にクマを作り上げる。

(ほむら、ちゃん……)

 よろよろと、ふらつきながらも立ち上がり、左手の腹で口元を拭って再度歩き始める。

「まどか、大丈夫かい? あまり無理はしないほうがいいんじゃないかい?」

「あなたがそれを言うの? 私をこんなところに連れてきておいて、ダメそうなら帰ったほうがいい、なんて、酷いよ……」

 足元はふらついているまどかは、だけれどどこか芯を取り戻した様子でほむらに近づいていく。
 受け入れて、迷いのなくなった足取りは先程までよりも幾分か軽い。

 血だまりに靴底をつけてほむらへと近づく。
 しおらしい真っ白のハイソックスには跳ねた血痕が付着して斑な染みを刻み付ける。
 血だまりの真ん中でしゃがみこみ、膝やスカートに血が付くのすら気にした様子を見せずにほむらの体に手のひらをくっつける。

「ダメ、全然わかんないよ。キュゥべえ、ほむらちゃんは助かる?」

「血が流れすぎてるよ、呼吸もしていないみたいだしね」

 頭を横に振って、見込みがないことを即答し、二の句を続ける。

「でも君なら彼女を助けられる。辛うじて息があるとはいえ彼女は死んでいるも同然だ。
だけど君なら、君の力なら最大の禁忌すらも覆せるかもしれない」

 まどかの表情がこれまで以上に、濃く、深く、陰る。

(ほむらちゃんは、知ってたのかな。自分がこんなになるかもしれないって。
きっと、そうだよね。知ってて一人で戦ってたんだよね。
だからきっとこんなになっても、反対するんだろうな)

「ごめんね。キュゥべえ、わたし、私、契約するよ。ほむらちゃんを、助けて」

 鹿目まどかという小さな器から、魂が抽出され、凝縮される。
 魂がその密度を上げて世界へ干渉する力を濃く、強いものへと変えていく。

 桃色の柱が雲を貫き、空の向こうへ穴を穿つ。

 神にも届きうる可能性の一端が小さな命を助けるという近似値に収束していく。
 慈愛の女神が流した涙はたった一粒だけだ。だけれども、たったそれだけで十二分。



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