15: ◆8HmEy52dzA[saga]
2014/12/11(木) 23:32:25.70 ID:ey41gLLW0
005
千疋狼。
高知に伝わる説話が元となる、送り狼に続いてこの国において有名な狼の怪異だ。
ある夜、身重の女が山中を歩いていると狼に襲われる。
当然逃げる女だが、次第に追い詰められ、最後には高い木の上へと逃げ込む。狼たちも逃がすまいと梯子のように連なって高さを得るが、どうしてもあと一匹というところで届かない。
そこで現れるのが、狼どもの親玉、千疋狼だ。
千疋狼は普段は人に化けて暮らし、夜になると狼の群れを引き連れて人を襲う。
今は狼も日本からいなくなっちゃって、寂しいことこの上ないんスけどね。
それがいつかのアタシの物語だ。
退治された後には紆余曲折を経て、こんなナリになっちまったっスけど。
アタシが今も人を襲うのは、本能という部分もあれば、絶滅させられた同胞への追悼でもあったりするのだ。
まぁ、そんな美意識あってないようなもんなんスけどね。
人間は気に食わないし、お腹は空く。
ならやる事はひとつ。
それだけのことっス。
お兄さんと早々に牛丼屋を引き上げて、人気のない場所へと移動する。
「お兄さん、さっき人間じゃないって言ったっスよね」
適当な場所で足を止めると、お兄さんも上着を脱いでその辺りに放り投げる。
「ああ、言った。僕は吸血鬼のなり損ないだ」
「吸血鬼……?」
吸血鬼と言えば、西洋の妖怪だ。
人の血を啜り、身体を霧に変え、十字架と大蒜と陽の光に弱い、不死身の生物。
でも肩書きは大層なもんとは言え、お兄さんを怖いとは思わないんスよねえ。
それが本人の言う通りなり損ないだからかどうかは、わからないっスけど。
「吸血鬼か何だか知らないスけど、本気でアタシとやり合う気っスか?」
「当たり前だ。それに僕とお前じゃ致命的なまでに差がある」
「はあ?」
これ以上話す事などない、とでも言いたいのか、構えを取るお兄さん。
真夜中にサラリーマンと女の子が殺気立って向かい合う図は、何処か滑稽だった。
一見、オヤジ狩りに遭うリーマンの図っスね。
世知辛い現代の縮図っス。
30Res/44.43 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。