4: ◆Freege5emM[saga]
2014/12/20(土) 21:45:53.54 ID:dlUov/GTo
●03
オフの日、朝に二人で待ち合わせ。
私のプランで、午前中は映画に行くことになった。
「なんかオシャレなチョイスきたね。やっぱ奏ちゃん、こういうとこでこういうの見るの……
これ、上映中にポップコーンとか食べていいのかな」
周子は、あまり映画を見ない方らしい。
私が贔屓にしている映画館にも、選んだフィルムにも、少し呑まれている。
「気張ることなんかないわ。あまりつまらなかったら、午後のために寝てしまってもいいのよ」
「えー、奏ちゃんがあたしに選んでくれたんだから、それはダメよ」
といっても、周子はたぶん気に入ってくれるはず。自信はある。
めぼしい新作は、既に観ているから、周子といっしょに見られそうな映画の目星はつけていた。
こういう時、東京だとスクリーンが豊富だから助かる。
ブザーが鳴って、照明が落ちていく。映写が始まる。
私は映画のスクリーンより、隣の席に顔を向けていた。
上映の反射光で、暗闇から浮かび上がったり沈んだりする周子の顔を見ていた。
「うーん、見入っちゃったーん♪」
場内に明かりが戻ってきて、気の早い観客が出口をくぐっている頃。
一本の映画が終わった後の、気怠くも満たされた余韻が、周子から漏れた。
「見た目はキレイだったりかっこよかったり、お高くとまった主人公かなーって思ってたけど、
ヒトに見えない所でいろいろあるのを見ちゃうと、つい感情移入しちゃった!」
「様々な顔を持っているのに、他人に見せられるのは綺麗なところだけ、なのよね」
それってなんだか、アイドルに似ている。
と、私たちの感想がそこで重なった。
私が、周子に見せるのを尻込みしている顔があるように、
周子にも、私に見せていない顔が、あるんだろうか。
「このあたしが2時間近く映画見てて、ポップコーンも飲み物も空になってない! 快挙だよ!」
周子は最初の30分ぐらいは落ち着かなげにスナックをかじっていたけど、
折り返した頃には、紙コップも容器も肘掛けに放置していた。
それも私は、全部見ていた。
「確かに、途中で飲み食いするのがもったいないぐらいの映画だったけど、
残ったのを映画館の外に持ち出すのもね。奏ちゃん、食べ切るのちょっと手伝ってー」
周子はストローをくちびるで挟んで、ドリンクを吸い上げた。
私は周子の紙カップからポップコーンをつまんでいた。
氷が溶けてすっかり薄くなったドリンクが、
上映中の映画さえ見られないほど周子に現を抜かしている私と、重なって見えた。
いっそ、そのくちびるで吸い尽くしてくれればいいのに。
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