7: ◆Freege5emM[saga]
2014/12/20(土) 22:01:10.01 ID:dlUov/GTo
●06
夕方。中途半端な時間だけど、ショッピングを続けるには、少し疲れてきた。
「ねえ、周子。少し歌っていかない?」
カラオケルームがあったので、私は周子に声をかけた。
お茶をしてもいいのだけど、それなら事務所でもできる。
むしろ一部のアイドルがこだわっているせいで、下手なお店より上のお茶が飲める。
「いいね。アイドルになってからは、プライベートで歌うことってめっきり減っちゃったし。
行こ行こっ♪ 奏ちゃんのソロライブ、あたしが独占しちゃうから!」
“どんな笑顔すれば 嘘つきじゃないのかな
どこか宇宙舞い込んで うずく胸伝えたいけど”
“欲しいものはすべて あなたのなかすべて
赤い血のなか 探検したい 会える度に過激になる”
“あなたの優しい言葉が途切れると グレイの気がかり目覚めてしまう
ずるいこと 悪いこと もっと素顔からはじめさせて”
なんて歌を、歌ってるんだろうね。私ったら。
いくら面と向かって言えないからって。
表情を作るしかなくても、いつか本心に気づいてくれるでしょ――そんなワガママが、言いたい。
「いやー、最初っから飛ばすねー奏ちゃーん! シューコちゃんキュンキュンだよもー!」
「ふふ、そうかしら」
“allo allo toi toi”(君に私の声、聞こえてる?)と私がウィスパーで締めくくると、
周子は一番熱狂的なファンにも負けないぐらい賛辞を、間近から送ってくれた。
「奏ちゃんみたいなクールなコが、こんな儚げな一面をチラっ♪
と見せたら、みんなイチコロだって!」
私が歌にしか乗せられないモノは、あなたにどこまで届いているんだろうか。
「んじゃ、しんみりしたところで次はあたしー♪ ちょっとハイな曲にしちゃおうかな。
んんーふふふっ、いいねカラオケマイクは。ステージマイクと違ってゴマカして遊べるし」
私がマイクを手渡すと、周子は私と対照的に、うきうきと弾むようなラブソングを紡ぐ。
ただ歌うのはつまらないから……と、あなたも誰かを思って歌っているのか。
周子に握られたマイクが、少し羨ましい。
私では、あなたの吐息も歌声も、あんな近くでは感じられないだろうから。
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