過去ログ - 【モバマス】「橘ありすの十四日間戦争」【橘ありす×市原仁奈】
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6:名無しNIPPER[saga]
2014/12/24(水) 22:47:45.79 ID:YqYwLBdl0
「……『ドラえもん』ですか」

 私が仁奈さんと同じ年の頃は、枕元にドラえもんの単行本を積み上げて、ベッドで順番に読みふけったものです。

 今でもアニメを見ているのですが、子どもっぽいと言われてしまうのが嫌で、クラスの人たちが話をしていても、知らんぷりをしてきました。

「乃々おねーさんが、貸してくれやがりました。すげーおもしれーです。タヌキの気持ちになりてーですよ」

「ドラえもんは、ネズミに耳をかじられた可哀想なネコ型のロボットですけど……」

「そうなんでやがりますか? 今度、桃華おねーさんに教えて……」

 不意に途絶えた言葉の切れ端が、重苦しい沈黙を呼び込みました。

「桃華さんのこと、聞きましたけど……心配です」

 気落ちした乃々さんに感化されたみたいに、仁奈さんは漫画を閉じて、うなだれてしまいました。

 何度もまばたきをして、涙をこらえているように見えます。

 病院ではずいぶん親密そうに見えましたし、本当は、無愛想な私なんかじゃなく、桃華のそばにいたいと思っているでしょう。

「これから、お見舞い行きますけど……その……」

 慰めの言葉を探そうとして、乃々さんはたちまち、思考の迷宮に迷い込んだようです。

「……そうでごぜーます!」

 仁奈さんが、さも素晴らしいことを考えたというように、目を輝かせました。

 その純粋な笑顔とは裏腹に、私の心はどこまでも冷え切っていきます。

 仁奈さんが、何を言い出そうとしているか、分かってしまったからです。

「一緒に、桃華おねーさんのお見舞いに行くですよ! きっと喜びやがります!」

 ……ほら。

「これから、レッスンですから」

 胸の不快なざわめきが、想像していた以上に冷たい声を、私の口から吐かせました。

「……申し訳ありませんが。桃華によろしくお伝え下さい」

 乃々さんは寂しそうに頷くと、小さく手を振り、事務所を去っていきます。

 笑顔を消し、しゅんと肩を落とした仁奈さんの姿が、私の心に新たなさざなみを起こして、どうしようもなく嫌な気分になりました。

 こんな言い方しかできない自分が、一番に、嫌でした。

「では、行きましょうか」

 桃華の入院を告げられた時から、足元がなんだか、おぼつきません。

 地面はこんなに硬いのに、ふとした弾みでぐにゃりと歪んでしまいそう。

 どうしてこんなに……心が落ち着かないんでしょうか。

 だれか、教えてください。


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