過去ログ - タイトルを書くと誰かがストーリーを書いてくれるスレ part2
↓
1-
覧
板
20
503
:
名無しNIPPER
[sage]
2015/03/05(木) 19:37:15.82 ID:pSdHJ1vI0
>>502
『趣は徐に現れる』
私は喫茶店が好きだ。
あの落ち着いた雰囲気の中、それに見合った風貌のマスター、
そしてその空間を大切にする常連客。
厳かな空気が流れながらも、居心地のよい店内で飲む珈琲の美味さは
言葉に言い表すのもおこがましいように感じるのだ。
そんな喫茶店に憧れて、マスターになることにした。
学生時代は気に入った喫茶店でバイトをして、
どういう風に店を作っているのか学んだ。
当然珈琲だけでなく一般的に喫茶店で出される飲み物の淹れ方も教わったし、
軽食の作り方も身につけた。
学べることは精一杯学んだ。
あとはお客に美味しい珈琲とほっとする時間を提供する店を作るだけ。
そう思って店内の備品や装飾品には念には念を入れて、
これぞと思うものを用意した。
なんだろう、これじゃない。
こう、ぎこちないのだ。
テーブルが、椅子が、店内すべてのものが緊張しているような、そんな感じがする。
今更すべて取り替えることはできないし、中古品はできれば使いたくない。
新たな一歩は新たな仲間とがいい。
どうやら友人たちは気に入ってくれたようだ。
あちこちで宣伝してくれるのか、しばらくにぎやかな日々が続いた。
誰も固定客にはなってくれなかったが。
それでもたまに顔を見せてくれるようにはなった。
賑やかしが収まった頃、ふらりとやってきた客がよく来てくれるようになった。
月に一度来るかどうかくらいだが。
決まって新聞を読みながらブラックを飲んでいる。
何のごまかしも利かない。
試されているような気分になるが、いつも最高の一杯になるように落とした。
私がマスターと会話することを好まなかったし、せっかくの時間をゆっくり過ごしたいほうだったので、
自分からお客さんに話しかけることはなかった。
無料で出している2杯目を勧めるときだけ、それもお客さんの雰囲気というか
話しかけてもよさそうなときを見計らって声をかけた。
そこでお客さんから声をかけてもらえるようになった。
ちょっと嬉しい。お客さんの好きなものや好きな味を知って新メニューなんかを考えてみたりもした。
新しくできたものは真っ先にその人に試してもらって、気に入ってもらえたらメニューに加えた。
手間がかかりすぎて、メニューに載せにくいが、味わってほしいものなんかは隠しメニューにした。
当然常連客やたまたま注文を聞いた人が頼む程度だ。
いつも本を読みながらケーキとカフェ・オ・レを飲んでいる女性がいる。
ケーキとカフェ・オ・レのコツを聞かれた。
質問をされるたびに丁寧に答えるように心がけた。
そんな毎日を繰り返しているうちに、常連客は増えた。
たまに来る程度だったお客さんは、平日は毎日朝早くに来てくれるようになった。
いろんな客がきた。
こなくなった客もいた。
常連客の年配の人はもう何年見てないだろう。
ついこの間、常連客の娘さんだという方がいらっしゃった。
その人は、毎日朝早い時間に新聞を持っていらっしゃる方だった。
先日亡くなったそうだ。
いつもここの珈琲が美味いんだと、新聞片手に娘さんの出勤時間に合せて出かけていたと教えてくれた。
娘さんは仕事が遅くまであるので、お父さんと来るときに店の前まで来るだけで入ってきたことはなかったそうだ。
一緒に飲みたかったな、ぽつりとつぶやいて、じっくり味わっていた。
帰り際、また来ますと言ってくれた。
「お父さんが気に入ったのはきっと珈琲だけじゃなくてこのお店なんだと思う。
こんな居心地いいお店、他に知らないもの」
娘さんが帰っていったあと、店内を見渡してみた。
ああ、いつの間にか目指していたものはここにあったのだと気づいた。
<<前のレス[*]
|
次のレス[#]>>
1002Res/428.77 KB
↑[8]
前[4]
次[6]
板[3]
1-[1]
l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。
過去ログ - タイトルを書くと誰かがストーリーを書いてくれるスレ part2 -SS速報VIP http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/kako/1420346744/
VIPサービス増築中!
携帯うpろだ
|
隙間うpろだ
Powered By
VIPservice