過去ログ - タイトルを書くと誰かがストーリーを書いてくれるスレ part2
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818:名無しNIPPER[sage saga]
2015/05/10(日) 09:56:59.90 ID:a0W8GvoPo
>>746「狂騒夜会バターピーナツ」

魔法王国ザヴァロン。
その豪奢な庭園にて夜会が開かれていた。
人々の注目は王子と、彼と踊る一人の女性に向けられている。
彼女は平民ではあるが王子の学友だという。

美しい女だった。
それは外見だけの話ではなく、魂から発せられる気品のようなものがあった。
身分の差を越えたカップルに向けられる羨望と、嫉妬。
そんな視線を受けながら、女がそっと囁く。

――あなたはバターピーナッツが好きだったわね。

「よく憶えていたね、割とどうでも良い事なのに」

少し驚きながら王子は答える。
繋いだ手、そこから伝わる体温を感じながら、王子は冷えた言葉を口にした。

「計画は上手くいきそう?」

――気付いていたのね。

少し驚きながら女が答えた。
そんな彼女の態度に少しばかりほくそ笑みながら、王子は言う。

「君がボクを理解しているくらいには」

繋いでいた手が離れた。その代わりに身体を密着させる。
女の手には銀色のナイフがあった。
小振りなそれは、暗殺を行うにはうってつけのサイズだろう。

――バカよ。

女は囁く。

――見抜いていたなら、私を処刑することも出来たはずだわ。

まるでそうされる事を願っているかのような口調だった。

「さてね……」

王子はそうはぐらかすように呟いてから、続けざまに言う。

「君がボクを殺さずにはいられない事は知っている。
 それがボクと君という人間の立場だ。立場は変えられない。
 周りを変えようと努力したこともあるけど――。
 もうボクは疲れてしまったし、ここで終わるならそれも良いと思う」

そして早口で付け足すようにして言葉を走らせた。

「本当だよ。くだらない好物のことも憶えててもらえたしね。
 ここで死んでも寂しくないんだ。不思議な気分だよ。
 これはこれで願っていたことでもある。思い残すことも無い……」

彼女は飛ぶだろうか、と王子は思った。
かつて見た、まるで天使のように真っ青な空を羽ばたいていく姿を思い出す。
魔法は本来そのように使われるべきなのだ。
魔力の強い貴族が、より弱い人々を支配するためでは無く。自由へ……。

王子は思う。彼女はボクを殺さずにはいられない。
人と人を縛り付ける、身分という楔をほどかずにはいられない。
やがて城門の前に、市街の隅に、そしてこの王宮に入り込んだ反逆者達がクーデターを開始するだろう。
ボクの死を合図にして天使達が羽ばたいてく。

彼は千億の天使の群れを夢想していた。人々よ自分を信じて羽ばたいていけ。
ふと女の顔を眺める。
そして驚く。彼女にしては珍しいことに、泣いていた。
ボクらは同じ夢を見ていた。多分それがこの結末を呼んだのだ。

ゆっくりとナイフが突き刺さってくる。
それがこの王国を終わらせるものだと信じて王子は笑った。
そのままの顔で、バターピーナッツなんて間抜けな話題を憶えていた天使の顔を見る。
暗くなっていく視界の中、彼女の流す涙が止まりますようにと、それだけを彼は願った。


〜終わる〜


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