過去ログ - タイトルを書くと誰かがストーリーを書いてくれるスレ part2
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855:名無しNIPPER[sage]
2015/05/27(水) 21:04:08.15 ID:Kb3+ICuIo
>>854

「私の命と私の血、どっちの方が高いのかな」


青白い手首から伸びる管、その先端に繋がれた点滴がまばたきの間隔で液体を血管の中に落としていく。

私の血に溶けていく"シスプラチン"という名前の水は、高価なプラチナから作られる抗癌剤らしい。詳しいことは私も知らないが。

この毒水は私から景色を奪い(光に弱いらしい)、次に髪を奪い、そして音を奪い、最後に死ぬ権利さえ奪いつつある。


私のすり減っていく人としての価値の代わりに、削られてできた隙間が少しずつ白金で満たされていく―――

そんな気味の悪い譫妄すら、この皮膚の裏を蠢き回る疼痛を忘れるのにはうってつけだ。


今の私にどれほどの価値があるというのだろう?

この身体に宿った卵巣がんは、子供をつくる可能性だけでは飽きたらず私自身の可能性まで貪欲に喰らい成長していく。

死にたくないと思った。不死を渇望した。


―――不死と言えば。

がん細胞は不死化した"わたし"らしい。なんとも境遇が私に似ていて愛着が湧きそうだな、と自嘲ぎみに嗤う。

だが可哀想なことに、彼らはこれから私を流れる白金(しろがね)の血潮に殺される運命を辿るだろう。


「……ごめんね」


どうせお互い長くはないのだ。ならいっそのこと―――

私は精一杯の力でなんとかチューブを掴むと、勢いよく静脈に突き刺さった針を引き抜いた。ちなみに癌は治った。


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