過去ログ - タイトルを書くと誰かがストーリーを書いてくれるスレ part2
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951:名無しNIPPER[saga]
2015/06/13(土) 14:00:31.91 ID:x/z9xBSAO
>>912
「クビナシの花」



重く黒々とした雲が立ち込める天からは音もなく雨が降り注ぎ、昼だというのに辺りは妙に薄暗い。

朝右衛門は唇を引き結んだまま、刀の柄に手をかけた。

目の前には縄を打たれた死罪人がひざまずかされている。


罪人は女であった。

それも美しい女である。


遊女であったこの女は、言い寄る代官の口説きをはねつけて不興を買い、あらぬ盗みの罪を被せられたらしい。
もっとも、朝右衛門にとってその当たりの事情は興味がない。
朝右衛門は、ただお役目のまま、首を斬るのみである。


二名の門弟に押さえつけられ、首を差し出すように前のめりになった女の肢体には、薄絹の赤い襦袢の上から縄目が食い込み、躯の線がくっきりと浮かび上がっている。
薄暗い雨の中、赤い襦袢から伸びた首とふくらはぎの色だけが抜けるように白い。
刀を抜いて構えると、朝右衛門は、女が暴れられぬよう、その肩を押さえつける二名の門弟たちに目で合図をする。


刀を振りかぶり、狙いを定める。


と、その時。

女が首をねじり、朝右衛門に顔を向けた。

雨に濡れて頬に張り付いた長い髪。薄い色の瞳が朝右衛門の視線を捕らえ――

――諦めたようにふわりと笑う。

――雨に濡れた花のように。


『ぃええああっ!!』


門弟たちが女を押さえつけ直すのを待たず。

裂帛の気合いと共に朝右衛門は刀を振り下ろした。

どん、という音とともに女の首を朝右衛門の刀が通り過ぎ、半瞬遅れて、切断された女の首が地に落ちた。

実に見事な技の冴えである。


地に臥した女の首の斬り口より、どくりどくりと血が流れ出て、雨に濡れた地面にゆっくりと赤い花を咲かせていく。

ごろりと転がった女の首に、既に笑みは残っておらず。
それはもはや、驚いたような表情の、ただの生首でしかなかった。


朝右衛門は刀を鞘に納め身を翻した。

刑場の入り口を通り過ぎる際、生け垣に肩が触れ、ぽたりと地面に何かが落ちる。

朝衛門は立ち止まり、足元を見やった。



椿の花であった。



先程まで見事に咲き誇っていたであろうその花弁は、降りかかる雨粒に微かに震えている。


(……まるで、あの女のようじゃわい)


椿の花弁と、女の血と、襦袢の赤が、朝右衛門の脳裏で混じり合い――


――ぐるぐると、回った。


<了>


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