22: ◆EhtsT9zeko[sage saga]
2015/02/09(月) 02:26:42.43 ID:N5mizT4Bo
その晩、隣のキュラソー島から戻ったバーンズさんたちは明日の早朝の飛行機でこの島を出るために、夕食を摂ってすぐに部屋へと引き上げて行った。
バーンズさん達がチェックアウトしたあとは、週末まで予約は入っていない。急な予約でも入らない限り、明日と明後日はのんびりとしていられそうだ。
私は夕食の片付けを終えて、例のごとくホールで日報を打っていた。
ソフィアは来週分のスケジュールの確認や予算編成なんかを昨日の夜には概ね済ませてしまったようで、お店でもらった領収書なんかの整理を手伝ってくれている。
アヤは今日は機材や船、ペンションの設備関係の仕事もない代わりに、北米へと飛んだカレンが、アルバの空港に戻ったら掛ける、と言った電話を待っている。
ソリが合わない、口が悪い、なんて言っている割に、カレンの事となるとアヤはなんだか嬉しそうだ。
だけど、アヤは昨日の晩の私のことを思ってか、そのことをあまり考えないようにしているみたいだった。
口にも出さないし、それに意思もぼやかしているのか、ぼんやりとした感覚が伝わってくるだけだ。私にしてみたら、それはなんだか申し訳ないように感じられた。
「あー、なぁレナ。今って資金、どれくらい余裕あるかな?」
不意に、アヤがそんなことを聞いてきた。
「んー、っと…二月は凌げるくらいかな…」
私は手元のコンピュータの表計算ソフトを切り替えて確認してから答える。するとアヤはなぜだか少し残念そうに唸った。
「どうしたんですか?」
そんなアヤの様子にソフィアがたずねた。するとアヤは、あぁ、なんて声をあげてから
「今回のバーンズさんがそうだったけど、空港へ迎えに出るには四人がギリギリじゃないか、あのオンボロだと。
出来たら、安いのでいいからワンボックスタイプのエレカでもあれば良いんじゃないかって思ってさ」
とグラスを持った手を振りつつ言う。確かに、アヤの言うことはもっともだった。
今までは大口のお客さんと言えばオメガ隊やレイピア隊の人達くらいで気は使って居なかったけど、
これからもっとお客さんを呼び込もうと思ったら、あの小型のガソリン車では心許ないどころの話じゃない。
この島はタクシーも少ないし、あの車に乗りきれないほどのお客さんが来てくれたら不便をかけてしまう。
10人以上とは言わないまでも、せめて7、8人は乗れる車があれば、それに越したことはない。
だけど…
「エレカ導入にはもう少し蓄えが欲しいところだよね…買えなくもないけど、カツカツになっちゃう」
「そうだよなぁ。特にこの島じゃ、輸送費ばっかり嵩んで相場よりもちょっと高いしさ。せめて、中古でも良いから三分の二くらいの値段じゃないとな」
アヤの言う通り、残念だけど、新車導入はまだ先のことになりそうだ。
そんな話をしていたら、不意に玄関のチャイム音が聞こえた。途端にアヤがピクッと反応する。そんなアヤを見て、私も気配を感じ取って分かった。
カレンが戻ってきたようだ。
「なんだよ、あいつ!空港に着いたら連絡しろって言ったのに!」
アヤは憤慨しているのかどうなのか定かではない表情をしながら、ツカツカと、つとめて肩を怒らせるようにしてホールから出ていった。
その姿を見送った私は、ソフィアに気づかれないようにそっと、静かに、ゆっくりと深呼吸を繰り返す。
気持ちを落ち着けて、穏やかに保とう…今、カレンは大事な時期だ。
ただでさえ傷付けてしまったかもしれないのに、これ以上私の勝手でカレンを困らせる訳にはいかない…そう自分に言い聞かせた。
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