過去ログ - ペンション・ソルリマールの日報
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26: ◆EhtsT9zeko[sage saga]
2015/02/09(月) 02:28:45.26 ID:N5mizT4Bo

「んー、香りからして、旨そうだなぁ」

アヤがスンスンと鼻を鳴らしながらそんなことを言っている。

「これって、そんなに良い物何ですか?」

ソフィアがアヤにそう聞いた。確かにそれは私も聞きたいところだった。

いつもはアヤが気に入っている北米産のバーボンか南米産のウィスキーだし、そもそも地球のお酒には私もほとんど知識がない。

サイド3でもお酒はあったけど、ワインかビールに、地球の物に比べるとずいぶんと素っ気ない味のするウィスキーくらいだった。

「ノーザンオーシャンってのは、ニホンってところの北の方にある島が原産のブランドなんだ。

 良いトウモロコシを厳格な品質管理と製法で醸造させてて、味も風味も一級品なんだよ。

 そのノーザンオーシャンブランドの中でもこういう年代物は希少価値が高くてなかなか手に入らないんだ」

アヤに変わってカレンがそう教えてくれる。

 地球に来てもう一年半。コロニーに比べると食料も種類が豊富で味も良くて、コロニー以上に手軽に手にいれることが出来る。

それが、コロニーを植民地扱いして得られている贅沢なのだと思うと少し複雑な気持ちになる部分もないではない。

でも、あの戦争以降、地球連邦政府のコロニーに対する締め付けが一分緩和されていることも事実。

もちろん、サイド3はその限りではないけれど…そう思うと、あの戦争で散っていったスペースノイドの人達も無断死にではなかったんだって、考えられる部分もある。

全部が全部、良かった、だなんて思わないし正当化するつもりはない。アイランドイフィッシを落としてしまったことは許されるべき行為に違いはない…

 途端に胸がギュッと締め上げられ、頭にあの声が響いて来た。あの場所には、カレンの家族がいたんだ。

兵士でも、軍の関係者でもない、カレンの両親や弟妹が…

カヒュっと息が掠れて呼吸が出来なくなったような感覚に陥った次の瞬間、バシッと背中を叩かれる感覚で私は我に返った。

見ると、アヤが私を優しい瞳で見つめてくれていた。

―――大丈夫だよ、大丈夫

アヤのそんな声が頭に響いて来た気がして、私はそっと深呼吸をして気持ちを整える。

そう、今はその事を考えてはいけない。カレンが会社を立ち上げて、自分の暮らしの基盤を固められるまでは…

「ほら、レナ」

カレンがそう言って私の目の前にグラスを滑らせてくれる。アヤが好きで毎晩グラスに一杯だけ飲んでいるあのバーボンとは違う香りが鼻をくすぐる。

「レナ、音頭を頼んでも良い?」

カレンは私を見つめてそんなことを言ってきた。一瞬、こんな私が、とそう思ったけど、内心で私はその想いを振り払った。

戦争のことはどうあれ、カレンの計画が順調に行っていることは私にも嬉しいことだ。その気持ちに嘘はない。

私は乱れかけた気持ちを奮い立たせてカレンに頷いて声を張った。

「カレンの今日の成果と、さらなる成功を願って」

私がそう高々とグラスを掲げたら、カレンは嬉しそうな笑顔を見せて

「このペンションと、この島のさらなる発展も願って」

と言い添えてくれる。

カレンの言葉と想いが、突然私の胸に飛び込んで来た。暖かくて、優しくて、穏やかな…それは、アヤから感じる気配に本当に良く似ていて、なぜだか目頭が熱くなる。

私はそんな気持ちに背中を押されるように、二階ですでに眠っているだろうバーンズさん達のことも忘れて高らかに声をあげていた。

「乾杯!」

四人のグラスがぶつかり合ってカチャン、と微かな音を立てる。口をつけたバーボンは、私の心を満たしている暖かで穏やかで、そして優しい味がした。



 


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