過去ログ - ペンション・ソルリマールの日報
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33: ◆EhtsT9zeko[saga]
2015/03/09(月) 02:06:21.83 ID:ldjAGy3+o



 それから、数日が経った週末。

ペンションには、また別のお客さんがやって来た。何でも北欧出身の資産家の家系で、北米から南米へと縦断する旅の最中なんだとか。

見てくれはヨレヨレのシャツに伸ばしっぱなしの髭面で、とてもそんな風には見えないんだけど、アヤが言うには履いている靴がとんでもなく上等な代物らしい。

薄汚れていてとても高そうには見えない、と言ったらアヤは、

「あれ一足で、車が1台買えるかもしれないって靴だぞ」

なんて声を押し殺すようにして教えてくれた。

 本当かどうかは知らないけど、

高級ホテルなんかではお客さんの靴を見ればその人がどんなお客さんかが分かる、

なんてことが、ペンションを始めた頃に読んだノウハウ本にも書いてあったし、

見掛けに囚われないで感応してみれば、特段おかしな雰囲気を感じる分けでもなかったので、

アヤの話をそのまま信じていつも通りに出迎えて予約してあった部屋に通して、いつも通りに食事も振る舞った。

 今日は、アヤの誘いで海の方に行くと決めていたようで、朝早くからオンボロで港へと向かって行った。

 ペンションに残っているのは私とソフィアだけ。

カレンは木曜日に、大手銀行からの融資を受けるための相談と、ボーフォート財団からの資金で調達予定の飛行機を下見のために、ロサンゼルスに飛んでいる。

 今日の夕方には帰ってくる、なんて話にはなっているんだけど、どうやらペンションにやって来るのはカレンだけではないらしい。

なんでも、軍時代にカレン達のオメガ達の整備についていて、今後は導入する飛行機の整備をしながらカレンと共同経営に当たる予定の兄妹が一緒なんだそうだ。

彼らとはロサンゼルスで合流して、アナハイム社とその関連会社の製品…とどのつまり、飛行機を見ることになっているらしかった。

 私はその話を聞いて、一抹の不安が消せないでいた。

カレンともまだなにも話せていない状況で、さらに連邦の人が来て…もし彼らがコロニー落としや戦闘で、大切な人でも失っていたら…

私は、どうやってそれを償えば良いのだろう…

 そんなことを考えながら夕食の下ごしらえなんかをしていたものだから、キャベツを千切りにしながら自分の指先を包丁に引っ掻けてしまった。

「いっ…たぁ…」

鋭い痛みで、我に返ってとっさに傷口を押さえる。

「レナさん、大丈夫?」

すぐそばでシチューを煮込んでいたソフィアが心配げにそう聞いてくれる。

流水で洗い流して傷口をみると、それほど深く切ってしまったわけではなさそうだった。本当にほんの少し引っ掻けただけ。

「うん、ありがとう。平気みたい。ちょっと絆創膏貼って来るね」

そう言えば、こないだもやらかしちゃったっけな。まったく、心配性なところがあるのは分かっていたけど、いくらなんでも集中を欠きすぎている。

こんなのじゃぁ、カレン達どころか大切なお客さんにまで迷惑を掛けてしまう恐れもある。

 気を引き締めないと…私はそう自分に言い聞かせて、こっそりと絆創膏を巻き終わった方の手で自分の頬を張った。アヤ流の気合い充填方法だ。
 


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