53: ◆EhtsT9zeko[saga]
2015/03/17(火) 02:32:23.38 ID:CqIKSWGFo
カレンが家族のことで、私を責めたりしないって言うのは分かった。気持ちがちゃんと伝わってくる。
カレンは私に嘘や誤魔化しを言っているわけじゃない。それはまさしく、私にまっすぐに向けられた、カレンの本心だった。
でも、それでも私の胸の内には、何かがあった。それは、モヤモヤしていて掴みどころのない何か。とても不快で、ドロドロとしていて、拭っても拭い切れない、奇妙な感情だ。
私は、カレンに向かって首を振った。するとカレンは、腕組みをするなりうーん、と唸って私に聞いてくる。
「怖いの?」
怖い…?怖い…そう、そうだ…怖いんだ…そう、これは…この感情は、恐怖だ…!
カレンの質問に、私は胸の内の流動的な感情に突然形が現れたように感じた。
私は、カレンに頷いてさらにその感情を探る。同時にカレンがまた聞いてきた。
「何が怖いの?」
そう、それだ。私は、怖いんだ。でも、何が怖いんだろう…?
私はカレンを傷付けたと思った。不用意に、ペンションを実家だと思ってくれていい、なんて、元ジオンの私が言ってしまったからだ。
テオをカレンと一緒に病院に運んでくれた、フォシュマン兄妹にもそうだった。謝らなきゃ、ってそう思った。
ごめんなさい、ごめんなさいって、トイレで何度、思ったことか…でも、少なくともカレンは傷付いてなんていなかった。
むしろ私の言葉を嬉しい、と、そう感じてくれているようだった。でも、それじゃぁ私は、この罪悪感は、いったい、何なの?
そう思ったときだった。私の脳裏に、なんの脈略もなく、ある一つの可能性が降って沸いた。
私は、その可能性を反芻して、そして確信した。きっとそれが、私の心の中にあるものの正体だ…
私は、カレンの顔を見て言った。
「私は、怖いんだ…戦争が怖い。誰かの体を、心を傷付けてしまうのが怖い。誰かの命を奪うことが、誰かの意志を奪うことが怖いんだ…だって…だって、そんなことをしたら、私はまた…
また…あのときのシドニーみたいに、あの船のときみたいに、胸に穴を開けられるみたいな痛みと苦しみと恐怖が…私を絡め取るから…」
そう。それは、カレンに対する罪悪感でも、エルサ達に対する罪悪感でもない。いや、罪悪感なんてものじゃない。
それは、二次的に沸いてきてしまったもののことだ。その元となるこの胸にまとわりつくドロっとした感情。
それは、シドニーやアイナさん達と乗っていた船が撃沈されたときに感じたものと同じもの。それは、そこにいた人達の恐怖と絶望と、そして…
私が見つめていたカレンの表情が、悲しみに歪んだ。
カレンは私の肩を掴むと半ば強引に私を引き寄せて、アヤがしてくれるように、その腕で私を優しく抱きとめてくれた。
「分かったよ…レナ。あんたも…」
そう。私は…
「あんたも、傷付いてたんだね」
カレンの言葉を聞いて、また、目から涙がハラハラとこぼれだした。
そうなんだ。各サイドへの攻撃と破壊、コロニー落としや地球侵攻、そして家族を失って…
空っぽの私を助けてくれたアヤと一緒に巡って目にしたのは、傷付いた大地、傷付いた人達だった。
いつからかは分からない。分からないけど、どこかで私は壊れていたんだ。
私は、私の参加した戦争という行為そのものに、自分自身が傷付けられていたんだ。
それが、このドロドロの感情の正体…私のまだ癒えていない傷跡とそこに沸いた膿で、罪悪感の根源…。
カレンに対してじゃない。エルサ達に対してでも、ましてやアヤやオメガ隊のみんなに対してでもない。
私は…私自身を傷付けたあの戦争に参加したことそれ自体を、非難して、そして恨んでいるんだ…
「大丈夫だよ、レナ…。あんたにはアヤがいる。何なら、私もいてやるから…だからそんなもの、一人で抱えるんじゃない…私らにちゃんと預けなよ」
カレンが、そんな優しい口調で私に語りかけてくれる。
私はカレンにしがみつきながら、ただただ、彼女の言葉に頷いて、泣きじゃくっていることしか出来なかった。
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