過去ログ - 千早「どうぞ歌ってくださいと、話しかけてきた」
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11: ◆WOrY9N/cxs[sage saga]
2015/01/12(月) 02:27:25.92 ID:r0J+Luue0


「やぁ、よく来てくれたね」

「いや、こちらこそ。わざわざ呼んでもらって」

「さぁ中へ。ワインでも開けようか」

「え、いや……まだ仕事があるから……」

 ポロシャツにパンツというラフな格好からか、あけっぴろげな態度のポールに戸惑いつつも中に入っていく。

「昨夜、テレビは見たかい? いや、そもそもボートに興味はあったかな?」

「い、いや、ない訳ではないが……」

「父は興味薄かったが、私はささやかながらケンブリッジのレースにスポンサーとして名を上げていてね。そうだな、賭けをしようか。まだ季節には遠いが……なに、君はアメリカから来たのだ、オックスフォードに賭ければよい。そもそもだな、テムズ川のボートとは――」

 こちらの話を聞いているのか疑わしくなるほど口やかましくワインを注いではまくしたてる。
 それにしても、スタジオの彼が仕事の顔だとしても、変化が大きい。

 何より、顔と意識はこちらにあるのに、目は俺を見ていなかった。

「ところで、何か用だったっけ?」

「……君が曲を聴かせてくれると聞いたんだけれど」

「そうか、じゃあ聴かせよう。どれだったかな、これかな。名前は何だっけ? ちょっと探してくれないか?」

 彼はおどけているのだろうか。
 背を向けて鼻歌まじりに楽譜を集めている。
 俺は足元の楽譜をいくつか手に取り、その中に自分の名前があるのを見て驚いた。

「これじゃないか?」

「それか? あぁそれか。君か」

 あれは本当に俺への曲なのだろうか。
 人への曲に五十番目の悪夢などと名づけるだろうか。

 ポールがピアノの前に座り、俺はどこか腰を落ち着ける場所を探し、傍らのチェストに千早を飾った写真立てを見つけた時、演奏は始まった。




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