過去ログ - 千早「どうぞ歌ってくださいと、話しかけてきた」
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17: ◆WOrY9N/cxs[sage saga]
2015/01/12(月) 02:31:10.78 ID:r0J+Luue0


「――私は、男性運が悪いのかもしれません」

 高さ二十センチしか段差のないステージ下がわずかにざわついた。

 美希の発案により、イギリスでのラストライブは二部構成となった。
 一部を通常の予定通り行い、急きょ取り付けた二部はチャップマン氏の知る店で日本人限定となっている。
 スタッフも可能な限り日本人もしくは日本語を話せる人を集めたので、歌詞からMC、テーブルの会話までほとんど日本語となった。

「弟の、優のことがあって、こちらに呼んだ父は言い訳ばかり並べた手紙をぎりぎりになって送ってくるし、男性向けの仕事柄、似合いもしない水着やカエルの着ぐるみなんかも着せられたりしました」

 元々千早はMCを長くとらない。
 たいてい歌った後に「ありがとうございました」とだけ言って、時間が欲しい時に次の曲の説明をするぐらいだ。

「このイギリスで、ようやくまともな人と会えたと思っていました。音楽に真剣に向き合って、素晴らしい曲を作る人です」

 ここにはデビュー当時からのファンも来ている。
 ライブで大騒ぎしている彼らだが、アイドルが男の話をしているのに、失望もなく聞いてくれている。

「ちょうど一ヶ月前、消息を絶ちました。必要なことだったのだと思います。たった一曲だけを残して、それきりとなりました」

 千早からそう見えるように説明したのは俺だ。
 真実をそのまま伝える必要はないと思った。

「この一曲には詞がついていました。作詞をしたのは生まれて初めてだそうです。手にとった時、詞を読んだ時、曲を聴いた時、マイクの前に立った時、楽譜が、詞が、曲が、マイクが、どうぞ歌ってくださいと、話しかけてきました」

 千早は微笑み、息を吸うと陰を落とした。
 千早は、この曲は失望から這いずり出そうともがく詞だと言った。

「歌います。Reborn」

 千早は、歌いますと言った。




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