過去ログ - 千早「どうぞ歌ってくださいと、話しかけてきた」
1- 20
7: ◆WOrY9N/cxs[sage saga]
2015/01/12(月) 02:25:05.28 ID:r0J+Luue0


「――申し訳ない」

 翌日、スタジオで聞いたのは謝罪の言葉だった。
 期待が大きかっただけに残念だった。

 はじめ、ポールは演奏を快諾してくれたのだ。
 チャップマン氏と千早の催促も不要だったのだが、ピアノの前に座り、いざ鍵盤に指を伸ばした瞬間、彼は硬直してしまった。

 石のように動かないポールは数秒後には脂汗を滲ませ、ちらりと俺のほうを見ると、立ちあがって先の謝罪を口にした。

「ポール、大丈夫? すごい汗……」

 千早がハンカチを出す。

「もう大丈夫だ、やっぱり治らないね」

「……病気だったの?」

「恥ずかしい話だけど、あがり症なんだ。隠し通したかったけど」

「あがり症? そんなの……」

「わかるだろう、尋常じゃないんだ」

 びっしょりと光を反射する彼は手のひらを見せた。

「ボクだって聴いてもらいたかった」

 結局その日は千早のレコーディングを見るだけとなった。
 千早は現在2枚目のアルバムを企画中で、収録は今月中にも終わる予定だ。
 その発表と同時にイギリスでのラストライブを開催、俺たちは帰国する。

 それまでおれはイギリスのレコーディングをたっぷり勉強させてもらうことにした。

 気になることもある。

 あの時、ポールは嘘をついた。

 弾けないのは事実だが、決してあがり症ではない。

 彼ははっきりと俺を見た。俺と千早を見た。




<<前のレス[*]次のレス[#]>>
19Res/20.29 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice