過去ログ - 紬「真夜中のいちご」
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96:名無しNIPPER[saga]
2015/01/14(水) 22:14:47.45 ID:sdjP5j9j0

電車の到着を知らせるアナウンスは、不必要に大きく、怒鳴り散らすように響く。
ゆっくりとしたスピードでホームに進入してくる電車。
電車を待つひとの群れも妙にべっとりとスローモーな動き。
まるで周囲の空気が粘り気を帯びているかのようで、
すべてのものはドロドロとした粘液をかき分けながら動いていた。

ピロンパロンと間の抜けた電子音と共に扉が開く。
澪ちゃんはわたしの肩を抱くようにして、一歩を踏み出した。

軽やかな一歩だった。

昼の電車内は中途半端な混み方をしていた。
「座りなよ」「座っていいよ」…と言うこともなく、わたしたちは壁にもたれて音楽を聴いている。

「…いいだろ。このバンド」

今度はよく、音が聴こえる。
わたしは少しだけ表情を緩めて、こくんと肯いた。

電車から見上げた空は灰色がかっいて、薄白い月が浮かんでいるの見えた。
昼の空にも月は存在する。
ほとんどの人が気がつかないだけで。
ほとんどの人が必要としていないだけで。
昼間の月も光を放っている。

「お、着いた」

10曲目の音楽が終わるタイミングで電車の扉が開いた。
わたしの右側に立っている澪ちゃんが左手でわたしをつかんだ。

「さ、降りよう」

グイ、と。
有無を言わさない強さだ。
電車を降りて呆然とするわたしに、澪ちゃんはチケットを二枚見せた。

「今からの時間ちょうどの特急があるから。
 温泉に行くぞ」




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