13: ◆8HmEy52dzA[saga]
2015/01/16(金) 20:33:48.85 ID:6UJ3zAla0
005
心当たりがあるから安心してくれ、と事務所の皆に伝えた後、僕と橘は街中の喫茶店で手を握りながら隣合って座っていた。
普段ならば美少女とお手手つないでカフェタイム、なんて身体中の体液を流しながら喜ぶところだが、今はそんな場合でもない。
手を繋いでいるのは、離した瞬間に橘を見失う可能性が高いからだ。
とは言えほとんどの人間には橘が見えていない筈なので、傍から見たら僕が一人だけで寂しくお茶をしているように見えるだろう。
理由は後述するが、今は出来る限り人の多い場所にいる必要がある。
それと……後は名前だ。
「済まないが橘、今から事が終わるまでお前のことを下の名前で呼ばせてもらうが、気にしないように」
「え……はい?」
「ありす、突然だが彼岸花は知っているか?」
「……知っています。あの赤くて綺麗な花でしょう?」
彼岸花。
ユリ科の多年草で、日本においては一般的に縁起の悪い花とされている。
理由としては、墓場に咲くことが多く、その美しい外見に反して毒を持つ花だからだ。
だが実際、彼岸花は人間にとっては益花でもある。
墓場に良く咲いているのも理由がある。
その昔、火葬が出来ない程貧しい家は土葬にするしかなかったのだが、その死体を鼠や土竜に啄まれない為に茎に毒を持つ彼岸花を植えていたという。
それに、毒を持つが故に年貢の非対象であることから、食用としても植えられていたということだ。
味は食べたことがないのでどうか知らないが、水で洗えば毒はお手軽に抜けるらしい。
「それと何が関係あるんですか?」
「ありすは彼岸花の怪異に取り憑かれている」
「怪、異……?」
「今のありすの状況を作り出している存在だ……お化けや妖怪と言い換えてもいい」
「そんなこと――」
「ある訳ない、なんて事はない。まずは現実を受け入れるんだ。実際、ありすには異常が発生しているだろう」
「それは……」
現在、橘の頭ではそんなものがある訳ない、という常識と実際自分に起こっている理不尽とがせめぎ合っているのだろう。
どんなに驚いても滅多に感情を表に出すまいと尽力していた橘が、戦慄に染まった見たこともない表情をしていた。
僕と握る手にぎゅっと強く力が入り、手のひらが汗ばむのがわかる。
気を落ち着けるためか、僕が注文したレモンティーで唇を濡らす。
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