5: ◆8HmEy52dzA[saga]
2015/01/16(金) 20:18:58.28 ID:6UJ3zAla0
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橘ありすはアイドルだ。
彼女な述懐した通り、年少組の中では特に群を抜いて子供としては自分の考えをしっかりと持っている。
下手をしたら僕よりもちゃんとしているくらいだ。
だがその性格は人によっては子供らしくない、とも取られるだろう。
それ程までに橘は一般的な十二歳とは一線を画している。
僕が思うに、彼女は子供であることをコンプレックスに思っているんじゃないか、と思う。
早く大人になりたい、と思う気持ちは僕にも良くわかる。
僕も子供の時分は力のない自分に切歯扼腕し、早く大人になりたいと思っていたものだ。
最もその結果、現在理想だった大人になれているかどうかは、怪しいところではあるが。
僕と橘は、二人で会議室の机を挟んで対峙していた。
少々時間に余裕もあったので、橘を宥め、嗜める為にも二人で話がしたい、と櫻井と結城には席を外してもらったのだ。
「橘、もう少し皆と仲良く出来ないか?」
「……意識して避けているつもりでは、ないんですが」
「わかってるよ、そんなこと」
橘は結城にも言い含めていたように、他のアイドルからも橘と呼ぶようにと言伝をしている。
子供にとんでもない名前をつける、いわゆるDQNネームが跋扈する現代においてはわからなくもないが、橘の下の名前はご存知の通りの『ありす』だ。
多少、日本人としては変わっているものの、眉を顰める程ではないだろうし、女の子らしいと僕は思う。
有栖川有栖もいるしね(あれはペンネームだが)。
それに僕の知り合いにはもっと珍しい名前の人間なんて化外の存在も含めればいくらでもいる。
唯一、普遍的と言える名前は羽川くらいのものではないだろうか。
「まあ、橘の言い分も多少はわかるよ。僕の名前もかなり珍しい方だしな」
「そうですね」
僕にしたって暦、という名前の人間には今まで往々にして会ったことがない。
ともかく、自分を呼ぶ際には苗字で呼んでくれ、というのが橘の主張だった。
理由としては、本人曰く日本人らしくないから、との事だったが……。
察するに、他人と違うのが嫌なのだろう。
自分の名前や立場を気にするのは、思春期には良くある事だ。
しかし苗字で呼ぶことを強制することが異常とまでは言わずとも、他人行儀であることには違いない。
アイドルである以上、同じ事務所所属であろうが他のアイドルがライバルなのは百も承知だ。
同じ事務所内で争うこともアイドルとしての成長は勿論、避け得ない事象だということは、聡明な橘のことだからわかっているだろう。
だが、だからと言って必要以上に対立する必要性なんて全くない。
ここは一度、やんわりと諭しておくべきか。
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