過去ログ - 「彼女の全身が石英で出来ていた事」
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9:[sage]
2015/02/20(金) 00:36:53.42 ID:EfW8IvJ/0
そうして幾ばくかの月日が経った。

穏やかな日には外に出かけて、雨の日は同じ布団に入って手を繋いだ。


浮気なんか考えたこともなかった。

向こうもきっと浮気なんかしていなかった。

俺の女より硬派な女はこの世には居ない。


でも、何とも言えないもどかしさ、閉塞感を、本当に時々感じるようになった。


石英だった彼女は、時々とても寂しそうな顔をして何かを見るようになった。

子どもが出来ない事を告げられた時と同じ顔をして、大粒の瑪瑙(メノウ)からぽろぽろと命をこぼす。


理由などとても聞けなかった。

彼女は聡明であり、俺をよく信頼していた。

俺もまた彼女を信頼していた。何か打ち明けないことがあるとすれば、それには彼女なりの理由があるのだ。


ただ寂しそうな背中を見るのが辛かったから、そんな時は決まって彼女を後ろから抱きしめる。

首筋に鼻を押し当てて匂いを嗅いだ。

石英は汚れや匂いが染みにくいため建材に利用される。


そんな彼女でもじっとくっついていたら俺の匂いがつくんじゃないかと思ってずっと抱きしめていた。

彼女は何も言わなかった。




石英には一つだけ、とても寂しい性質があった。


彼女は風化に強い。

彼女は確かに変わらず美しかったが、彼女にとっての美は耐えがたい呪いである。


紛れもなく不老不死は彼女の首を絞め、彼女の彼女たり得る人間の部分をそれはもう激しく嬲り殺そうとした。

抵抗も虚しい。



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