17: ◆8HmEy52dzA[saga]
2015/02/25(水) 21:00:53.16 ID:DLa1I0Qh0
そう。
『私は阿良々木暦なんて人、知らない』。
わたしのプロデューサーは、尾崎さんだ。
突如として身を襲う、捩れた事実に動揺する。
目の前の阿良々木さんは、そんなわたしにも構わず説明を続ける。
「落籍しかみな。ひかしかみなだ。宿借の怪異……今、水谷が使っている不思議な力の正体だ」
「怪異……?」
怪異。
怪しく、異なるもの。
人ではない、異形のもの。
「落籍しかみなは電子の海に棲む宿借だ。膨大な、無限に近く広がるネットの世界を媒体に、宿主にコピーした一日という宿を貸す。その宿の中では好きな時間を繰り返す事が出来る……その代わり、宿主……水谷の心を餌とする。いつまで経っても変わらない一日への絶望や虚無感……そんなマイナスの感情を、活動源としているんだ」
「…………」
「かみな、とは古語で宿借を指す。落籍すは身請けするという意味だ。一日を貸し、その身を囲い、生命エネルギーを餌にする。賃貸と沈滞も掛かっている。つまり、これはお前の心が磨耗して崩壊するまでの間、永遠に変わらない時間を繰り返すだけのものなんだ……水谷」
残念ながらな、と苦しそうに眉根を寄せるその様子は、まるで自分に与えられた痛みに耐えているようにも見えた。
どうして。
どうして、そんな顔をするの?
「影縫さんと斧乃木ちゃんは、こういう怪奇現象に対するプロフェッショナルとでも思ってくれればいい。僕も格は下がるが似たようなものだ。僕も含め、お前を止めに来たんだ、水谷」
「……わたしを、止めに?」
「外から見ると、この876プロダクションの事務所だけが、今日という日を繰り返している。さっきも言ったように、この繰り返しに意味はない。それに電子の世界ということもあって、外部から宿を壊すことは困難なんだ。水谷が自らループをやめるしか、ここから脱け出す手立てはない」
阿良々木さんはそう言って、わたしを真っ直ぐに見据える。
多くの人から見られるのは、怖くない。
長きに渡るネトア生活で、誰かに見られることはむしろ嬉しいとも思える。
けれど、こうやって面と向かってわたしを見られるのは、苦手。
何故ならネトアのわたしもアイドルのわたしも、わたしでありながら別人に近い。
ネットのわたしはEllieと言う名の、電子の世界に住む架空の女の子。
アイドルのわたしは水谷絵理という同姓同名の偶像の女の子。
わたしを見ないで欲しい。
水谷絵理を、わたし自身を、そんな眼で見ないで。
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