過去ログ - 水本ゆかり「大丈夫……でしょうか」
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1:名無しNIPPER[saga]
2015/03/07(土) 03:36:39.16 ID:qGvo/Y9F0
水本ゆかりさんのクリスマスプレゼントのお話
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2:名無しNIPPER[saga]
2015/03/07(土) 03:37:27.43 ID:qGvo/Y9F0
「……大丈夫、ですよね。うん。きっと、大丈夫」
大丈夫なはず。
昨日から、いえ、クリスマスに私が渡した演奏会のチケットを使いたいとPさんが申し出て下さった三週間前から、ずっと自分にそう言い聞かせてきました。
3:名無しNIPPER[saga]
2015/03/07(土) 03:38:37.18 ID:qGvo/Y9F0
そう、きっと大丈夫。
場所も間違っていません。
プラスチックの表札に書いてあるのはPさんの姓。
建物の名前も合致していましたし、時間も約束通り、14時丁度。
4:名無しNIPPER[saga]
2015/03/07(土) 03:39:37.01 ID:qGvo/Y9F0
「あ、やっぱりもう来てたんだな」
「ひゃっ!?」
……前々から思っていたのですが、Pさんに一つだけ不満があります。間が悪いです。
5:名無しNIPPER[saga]
2015/03/07(土) 03:40:11.07 ID:qGvo/Y9F0
何もなくても、何があっても、今日はきっと特別な日。
一人暮らしの男性の部屋に入るのは、初めてです。
彼には内緒ですが、母に口裏を合わせてもらって寮に外泊届けも出してあります。
6:名無しNIPPER[saga]
2015/03/07(土) 03:41:26.00 ID:qGvo/Y9F0
「意外と大荷物だなぁ」
「譜面台を持ってくるのに、キャリーケースが必要になってしまって。ほとんど隙間を埋める布しか入っていないのですが」
ごめんなさい。これも、半分くらい嘘です。
7:名無しNIPPER[saga]
2015/03/07(土) 03:42:01.47 ID:qGvo/Y9F0
きっと彼が求めているのは静かに安らげるひととき。
目を細めながら私の奏でるフルートの音に耳を傾けてくれる姿を想像するのは、今まで彼と二人で歩んできた道のりを以ってすれば容易いことです。
けれど、私はもっと先があると思い込み、誰にも邪魔されずに二人で過ごす時間に想いを馳せています。
そのことを彼に直接伝えるなどできるはずもなく、あわよくば、上手くいけばと勝手な期待を寄せるだけ。
8:名無しNIPPER[saga]
2015/03/07(土) 03:45:19.12 ID:qGvo/Y9F0
「折角だし、持ってきてくれたお菓子出そうか。お茶もあるから……」
「いえ、先に演奏させてください。……お菓子はPさんの感想と併せて、是非」
羞恥心に急かされるようにフルートを組み立て唇に沿えると、その冷たさに眉間に力が入ってしまいます。
9:名無しNIPPER[saga]
2015/03/07(土) 03:45:51.18 ID:qGvo/Y9F0
・・・
・・
・
Pさんと共にしてきた時間は短くはありません。彼のためにフルートを演奏したことも、何度かあります。
10:名無しNIPPER[saga]
2015/03/07(土) 03:46:45.69 ID:qGvo/Y9F0
「あの……お隣、失礼しますね」
「あ、う、うん。どうぞ。……えっと、ゆかり?」
Pさんの肩に少し寄りかかるように座ると、彼の体が少し跳ねるように強張りました。
離れなさいと言われてしまう前に、矢継ぎ早に次の言葉を紡ぎます。
11:名無しNIPPER[saga]
2015/03/07(土) 03:47:49.23 ID:qGvo/Y9F0
「あ、あー、ピアノならさ、久美子とかの方が」
違います。
貴方でないと、意味がないんです。
12:名無しNIPPER[saga]
2015/03/07(土) 03:48:34.36 ID:qGvo/Y9F0
「……嫌でしたら、振り払ってください」
彼の左肩に頭を預け、右手を絡めるように重ねると、彼は小さく溜息をつきました。
「……今日だけだからな」
13:名無しNIPPER[saga]
2015/03/07(土) 03:49:55.05 ID:qGvo/Y9F0
「だって、私は」
でも、どうすればいいのかわからない。
わからないけれど、私を突き動かすものは『伝えるしかない』と囁いて止まないから。
14:名無しNIPPER[saga]
2015/03/07(土) 03:50:27.88 ID:qGvo/Y9F0
「私は、ただ」
嬉しかった。
貴方が、私が成ろうとしている『何か』でなく、私を必要としてくれることが、他の人とは違う目で私を見てくれることが。
15:名無しNIPPER[saga]
2015/03/07(土) 03:51:15.31 ID:qGvo/Y9F0
「……ごめん。本当に、俺のせいだな」
悪いのは全て、恋の味を覚えてしまった、私なんです。
16:名無しNIPPER[saga]
2015/03/07(土) 03:51:46.68 ID:qGvo/Y9F0
「俺の方がこういうことは、しっかりしないといけないのにな。ごめん」
「……あの、Pさん」
「無下にはしたくないんだ。ただゆかりはまだ若いし、お互いに立場の問題もある」
「Pさん」
「ゆかりの場合は家も、だな。まどろっこしいと思うかもしれないけど、焦るのはまずいだろ?」
17:名無しNIPPER[saga]
2015/03/07(土) 03:52:51.40 ID:qGvo/Y9F0
「ふふ」
「……ゆかり。あのな」
「素敵な慰め方だったので。つい、真似してみたくなってしまって」
18:名無しNIPPER[saga]
2015/03/07(土) 03:55:18.05 ID:qGvo/Y9F0
「ごめんなさい、泣き出したりしてしまって」
「……とりあえず、洗ってきな。腫れるぞ」
「はい。……でも、残念です。もう少しで、伝えられたのに」
「いつもそうやって強がる」
19:名無しNIPPER[saga]
2015/03/07(土) 03:56:03.32 ID:qGvo/Y9F0
「今日、決めていたことが一つあるんです。……『思いっきり特別な日にしよう』って。ふふ、さっきのはかなり、特別な思い出になりそうです」
「……そうやって笑ってくれるならした甲斐があったのかも、な」
「それはもう。また私が愚図ることがあったら、お願いしますね」
「あのなあ」
20:名無しNIPPER[saga]
2015/03/07(土) 03:56:32.41 ID:qGvo/Y9F0
おわり
21:名無しNIPPER[sage]
2015/03/07(土) 04:04:13.76 ID:v9UUIf2B0
乙でした!
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