21: ◆/BueNLs5lw[saga]
2015/03/21(土) 19:00:31.58 ID:3oDo0G9g0
ゆきは人懐っこい性格だった。
初対面には多少人見知りすることもあるが、
最近は仕事とプライベートを――たぶん分けることができていると思う。
ゆきが私の下につくようになったのは、
私との相性がいいから、という理由らしい。
同僚から『きつい』と言われていた頃、
くそがつく程真面目に働いていた頃。
研修中でさえ、労働基準法などなかったかのような法外な業務を強いられ、
入社仕立ての頃は理不尽な程時間がない中で新規開拓あるいは挨拶周りに連れて行かれ。
当時、男性社員に混じって不平不満を近所の深夜スナックでぶちまけていたのは、
今となっては良い思い出だ。そこのスナックも、夜に挨拶周りに行った際の店の一つだった。
社長や専務に言わしめれば、『挑戦』とは『休日も働け』ということなのだ。
こんなブラックいつか絶対辞めてやる。
法外な業務をバカみたいに死に物狂いでやっている内に、気がついた。
周りで汗水垂らしていた奴らがいなくなっていたことに。
いるのはのほほんとした事務職の女子ばかり。
同期の男性社員らと3人で休日出勤した時、どうしようもないくらい暑い日だった。
残業代も出ない日々が続いていた。
三位一体で行動していた奴の一人が吐き気を訴えた。
トイレに連れて行ってやると、意味がわからない勢いで吐いた。
私ともう一人は最初、心配して外でずっと黙って待っていた。
一向に出てくる気配がない。
30分程経って、男子トイレを覗くとまだ吐いていた。
あの時、私らは、こいつこのまま死ぬんじゃないかと思った。
やばいだろ。
こいつ。
死ぬ?
泣きながら吐いていた男も、『もうダメ……』とか言っていた。
でも、急にそれが可笑しくてたまらなくなった。
死にそうな彼の横で、私らも何かの我慢が切れて、
笑いがこみ上げて、近所の公園の男子トイレで爆笑した。
今考えても、その時の心理状況は計り知れない。
そして、吐いていた男も一緒に笑っていた男も今はもういない。
あんな日々はもうこない。
あれがあったから、この会社の今があるのかもしれないが。
二度とごめんだ。
けれど、その頃培った自慢にもならないタフさが、女子社員をビビらせていた。
定時でさっさと上がるのは個人の自由。
ただし、今日やるべきことを残して上がるのは許せなかった。
どうせ明日に回ってくるだけだと言うのに。
悔しくないのか。
今日終わるはずだった仕事は翌日に残して。
その点では、ゆきとは旨があったのだった。
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