2:名無しNIPPER[saga]
2015/03/10(火) 20:19:29.36 ID:/eElTH0b0
「あ、え、い、う、え、お、あ、お!」
「声が小さいのう。虫かと思うでな」
「あ!え!い!う!え!お!あ!お!」
「何じゃ、出せるなら最初からやらんか」
この廃墟には猫と老人しかいなかった。
流木みたいに流れ着いた二人は途端に意気投合……した訳ではなかったが、なんとなくずっと一緒にいた。
憎まれ口は叩けど、居心地が悪い訳ではなかった。
老人の酒調達以外では、月一で一緒に街へ行く。
老人は人々に避けられながら最低限の買い物を済ませ、猫はその間タダでお芝居見物に行く。
赤と黄色に彩られた張りにそっと頭を覗かせれば、そこは猫の夢そのものだった。
ダンサーのしなやかな足は舞台上の空間にシュプールを作り、役者は姫に花を手向けて愛を誓う。
ピエロは入り口でおどけて曲芸を披露していた。
美しい世界だ。
カーテンの隙間から見える華やかな世界は、猫には極楽にも見えただろう。
猫はいつしか舞台俳優を目指すようになった。
それはゴミ置き場での生活に馴れた猫が思い描ける、これ以上ない夢だった。
「ああロミオ様、あなたは何故ロミオ様なの?」
「感情がこもっとらん!それじゃジュリエットどころか町娘にも見えんわい!!」
ジジイは初め、猫の夢を笑った。
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