16: ◆Freege5emM[saga]
2015/03/10(火) 23:42:23.07 ID:NvNrK1sjo
●15
意識が戻ると、窓の外は明るくなっていた。
重い体に鞭打って起き上がろうとしたが、身体がまだついていかない。
ベッドで唸っていると、すぐ隣りの音葉が目を覚ましてしまう。
「あ……おはよう、ございます……プロデューサー、さん」
音葉の声はカラカラにかすれて、見事なハスキーボイスと化していた。
それを聞いた瞬間、俺は頬が緩んで仕方がなくなった。
アイドル・梅木音葉のこんな声音を、俺以外の誰が見られるだろう?
「な、なんで笑うんですか……貴方のせいですよね?」
俺はしばらく湧き上がる笑いを止められなくて、
そのまま音葉の機嫌を損ねてしまい、朝から平謝りに謝る羽目となった。
「笑い事じゃないですよ……私、いつもこうなりますから……」
声がかすれた音葉は、哀れにも態度まで弱々しくなって、
スラリと洗練されたスタイルも縮こまってしまっている。
「歌であれば、私も、喉がもつように、コントロールして、歌いきりましょう……。
でも、これは……コントロールできませんから……」
数時間ステージで歌いっぱなしのコンサートをこなせる音葉の技量も、
喘ぎ声による喉の酷使については、どうにもならないようだ。
「私……貴方にされると、いつも声がこうなってしまって……。
だから、オフの前の日しか……で、できないじゃないですか……」
音葉は恨めしげな目線を俺に投げてきた。
「……オフの前の日だけじゃ、寂しい……だから、声を出さなければと思って、
私、頑張ったのに。貴方が私に意地悪するから……台無しです……」
抱かれると翌朝に喉がダメになってしまうから、翌日に仕事の無い日にしかできない。
それなら、抱かれていても声を抑えて喉が痛むのを防げば、翌日が仕事の日でも――
「……だって、これからもっと忙しくなったら、貴方と……」
ああ、だから音葉は、あんなに頑張って声を抑えようとしてたのか。
「……黙ってないで、何とか言ってくださいっ」
音葉は、また俺からそっぽを向いてしまった。
俺の内心で、音葉のいじらしい努力に協力してやりたい気持ちと、
音葉のハスキーボイスをまた聞きたい気持ちがぶつかりあった。
それはしばらく決着がつかず、おかげで俺は仕事に遅刻してしまった。
(おしまい)
読んでくれた人どうも
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