過去ログ - 咲「誰よりも強く。それが、私が麻雀をする理由だよ」
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688: ◆JzBFpWM762[saga]
2015/10/09(金) 20:37:49.42 ID:FKMhud4no


 物事がうまくいかないとき、まず自分の行いを省みる。自助努力はすべからく前提とし、冷静に分析する。弥勒菩薩の下に救済が約束されているとしても、自分だって頑張らないといけない。

 頼みとするところがなくなることは悲しいし、どうしようもなく不安になることだってある。けれど我慢しないといけない。人は誰しも自立して生きることを求められるところがある。

 助けを求めてはいけない。救いを望んではいけない。友達でも、本当に大切なことは秘めておかないといけない。

 何よりも。

 自分の願いを誰かに託してはいけない。

 一番ヶ瀬半兵衛の後家が救いの糸を垂らした神父にも病床の息子を託さず、ギルバート・ブライスが恋人に相応しくあろうと自らを厳しく律し続けたように。

 できれば廃人同様のモルヒネ患者のように家の裕福さに価値観を毒されずに。

 それが咲の理想なのだ。



 目覚めは良好だった。朝日が顔を出し、日中の蒸し暑さに比べたら幾分涼やかな寝室を後にして、冷房のきいた廊下に出る。

 人気の少ない早朝の廊下はどこか静謐だ。東京でも指折りの高級宿ということもあってか、年季の入った板張りの廊下には風情があり、漆喰の壁も然り。

 道中すれ違った老年の客に会釈を返す、若いのに早起きして感心だと誉められた。

 咲もいつも早起きというわけじゃない。おそらく大会中の緊張や無意識下の興奮が絡んで偶然早くに目が覚めただけで、普段はむしろぐっすりと寝てしまうほうなのだ。

 とはいえそんな説明をしても謙遜に受けとられかねないので、首から胸元に提げられたペンダントを見つけ、綺麗ですねと素直な感想を伝える。

 するとその人は目を輝かせ、これは東京に就職して親元を離れた孫がくれたもので、今日はその孫に誘われて観光がてら食事にいくのだ、と嬉々として話しだす。

 頬を緩ませ、その話をする老人の喜びようといったら遠足を楽しみにする子どものようで。少なからず共感した咲は微笑ましさに笑みを湛え、祝福する。

 家族というものはいくつになっても、いや歳を重ねれば重ねるほど大事に、かけがえのないものへとなっていくのではないだろうか。

 自分にとっての姉。自分にとっての母。自分にとっての父。

 家族との好事を喜ぶ老人の姿が自分の家族や自分に重なり、より身近に感じられたのだ。

 何より。

 今目の前にいる人が嬉しそうに笑っている。それは正しいも悪いもなく常に善いこと。未来が祝福されたものであってほしいと願う気持ちは止められなかった。

 とりもなおさず見知らぬ老人と談笑を交わす。そんなとき。



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