過去ログ - 咲「誰よりも強く。それが、私が麻雀をする理由だよ」
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◆JzBFpWM762
[saga]
2015/12/10(木) 22:47:20.99 ID:VT4MeD/xo
「――ん?」
思案をめぐらせながら自問していると、ネリーが俄に声をあげる。見てみると、彼女の瞳は自分を映しているように見えて通り抜けている。そんな気がした。どこを見ているんだろう。思考を打ち切って視線の行方を追ってみると、それは自分を通り越して後方、戸棚のあたりに向かっているようだった。
「あそこ……あれ、オルゴール? ……あそこらへんに前からあったっけ」
「――えっ」
慌てて振り向く。ガラスで中のものが透けて見えるその戸棚には確かに昨晩まで置いていなかったオルゴールが雑多な収納物にまぎれ、中ほどにしまわれていた。その位置は、立っていれば自身の身長のちょうど腰あたりに来る高さだ。
「あっ……」
失態を認識し、不意を突かれた自分の喉から声が漏れる。忘れていた。今朝、学校に行く前ふと聴きたくなって音色を鑑賞してからばたばたして急いで安全な場所にしまい込んでから、そのままになってしまっていたのだ。人目につかないようにという意味合いも含めて厳重に保管しておく必要があったのに。
マドロナのコブ材で作られた、曲線形のフォルムのオルゴール。いつもならあの宝物のことを忘れるなんてあり得ない。そのはずなのに。
「……これって」
泡を食いながら視線を移すと、一方のネリーはこちらを気にする様子もなく。戸棚のほうへと歩いていく。ゆっくりとした歩みで、茶色いフローリングを踏みしめて。
その瞬間――いやそれよりも以前から、二人の間に何か溝が生まれてしまったかのような感覚が胸のうちにあった。まるで得体のしれないものが澱んだかのような。ぶるりと身を震わせる。呆然と眺めた先には、一〇日にも満たないこのわずかな期間いつも見てきたものとは真逆の、つめたい血の通ったかんばせ。
「リュージュ社の、オルゴール?」
戸棚の前までたどり着いた彼女は断りもなくそれを開き、中に入っているオルゴールを見つめる。その声は、名状しがたい色に震えていた。ガラスの覆いがとり払われたオルゴールは彼女がつぶやいた言葉の通り、世界的に有名なオルゴール会社によるものだ。丸みを帯びたそれを飾り立てる花模様と、その――白い百合の模様を縁どる筋。はた目にもその高い質をうかがわせる上品な仕上がりをしているそれは、かけがえのない宝物だった。自分の宝物だ。なのに。
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