過去ログ - 咲「誰よりも強く。それが、私が麻雀をする理由だよ」
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◆JzBFpWM762
[saga]
2016/01/12(火) 23:39:45.71 ID:wCVwz0P2o
半時間後、咲はゲームセンター近くの通路の道沿いにある女子トイレの中にいた。
「はあ……私って頻尿なのかなあ……?」
そこそこ綺麗に清掃されたトイレの、化粧直しなどもできる手洗い場。そこの鏡と向き合いながら、咲は鏡に映る自分に問いかける。
ネリーが聞き込みをしている最中。尿意を催してしまい、咲は慌ててここに駆け込んだ。その直前、咲は今思い出しても顔から火が出そうなやりとりをしてしまったのだ。
『ふーむ……やっぱ手当たり次第に聞いても情報なんてそう出てこないかなあ……』
『あ、あの……』
『うん? どうしたの』
その時、咲はもじもじするのを必死に我慢していた。あからさまにトイレに行きたいのだという風にするのは恥ずかしくて、でも今思えば内股を擦り合わせる仕草などはしてしまっていたかもしれない。
『えと……お手、お手あら……』
『何て? 声小さすぎて聞き取れない』
ネリーが真剣に聞き込みしているところにお手洗いに行きたい、と言うのは何だか気が引けて。持ち前の引っ込み思案も災いして、ネリーが聞き取れなくても無理はない消え入る声で言葉を繰ってしまう。
『あの……だから、えっとね……』
『あの、何ていうかだいじょうぶ?』
『大丈夫! 大丈夫だから!』
『う、うん』
何が大丈夫なのか、むしろヤバいと思いながらも反射的にそう返してしまう。
『えと、えと……』
言うべき言葉が頭の中でぐるぐると回る。目も回りそう。目の前に、静かに言葉を待つネリーが佇んでいる。
い、言おう。恥ずかしいけど……言わなかったら、もっと恥ずかしいことになる。
深呼吸。昂った気持ちを落ち着かせていく。
しかし。
ネリーの後ろ、大して離れていない場所に付き添いの青年二人の姿が目に入って、感電したように咲は瞬間的に硬直する。
『あ、あああっ、ああ……っ』
『サ、サキ?』
絶望する。今言ったら間違いなく、彼らにも聞こえてしまう。がくがくと膝を震わせながら咲は呻く。
い、今言うの……? あの人たちの……男の人の前で? む、無理無理無理!
異性との接触が極端に少なかった咲にとってこんな事態は想定外すぎた。いや、想定していたって無理。咲はもはや正常を保てなくなりつつあった。
『うっ……、も、もう限界……!』
『ほ、ほんとにだいじょうぶ?』
故に――悲劇は起きた。
『おっ、おしっこ! おしっこいきたくて、あの、おしっこいってきていい!?』
『え……』
ネリーが唖然としていた。その後ろで、青年たちが目を丸くするのも目に入った。
しかしそのとき既に咲は、色んなものをかなぐり捨ててもわからなくなるほど混乱していた。
『い、いいよね!?』
『え、あ、うん……いいけど』
そして、瞬きを繰り返すネリーを置き去りにする勢いで、咲は最寄りの化粧室に駆け込んだのだった。
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