11: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/03/31(火) 04:25:18.54 ID:w4MVYybr0
麻雀部の部員たちと校門で別れた京太郎は一人で帰り道を歩いていた。京太郎は帰り際に買い食いでもしないかといって誘われた。しかし、「さっさと帰ってきて休め」と両親から言いつけられていたので、断ったのだった。
そうして、少し早歩きで、普通目に見るととんでもないスピードで帰り道を進んでいた。
帰り道を半ば過ぎたところで、金髪の女性と、背の低い黒髪の女性に声をかけられた。金髪の女性のほうがやや年上に見えるが、二人とも二十歳には届かない若さに見える。また、金髪の女性と背の低い女性はどちらもおそろいのワンピースを着ていた。
京太郎と、金髪の女性と、背の低い黒髪の女性が背の順に並ぶと、いい具合の階段になる。
金髪の女性は片手に買い物籠をぶら下げていた。金髪の女性はアンヘル。背の低い黒髪の女性はソックという。京太郎が数日前に出会った仲魔である。
足を止めた京太郎に金髪の女性アンヘルがこういった。
「龍門渕のお嬢様からマスターにパーティーのお誘いです。
表向きは無事に一族のものが戻ってこれたことを祝う場とのことですが、個人的にマスターにお礼がしたいらしいです」
龍門渕の事情などまったく興味がないというのが口調から読み取れた。アンヘルがいやいやでも京太郎にメッセージを伝えているのは仲良くしているメイドさんが龍門渕で働いているからである。
もしもメイドさんが一枚かんでいなければこのような伝言はしなかっただろう。
アンヘルが話し終わるのにあわせて、背の低い女性ソックがこういった。
「どうするマスター、断ろうか? 退院して調子が出ないからとでも言えば、引き下がってくれると思うが」
アンヘルと同じくソックも口調にやる気がない。さっさと伝言を伝えて、用事を済ませてしまいたいという気持ちがにじみ出ていた。裏社会の人間とコネクションでも作っておけなどといわないのはそんなものに興味がないからである。
伝言を伝えてくれた自分の仲魔に京太郎はこういった。
「そうだな、出席しておこうか、やることもないし」
龍門渕という巨大なグループにもヤタガラスに対しても敬意というのはない。自分の退屈を埋めてくれるのならば、それでいいという気持ちしかないのだ。退院してから妙に感じるつまらなさ。無駄にたまる体力。妙に高まっている集中力も、うっとうしくてしょうがない。それを京太郎はここで埋めてしまいたいと思っているのだ。
京太郎の返事を聞くと携帯電話を取り出してアンヘルがどこかに連絡をした。
「もしもし、一さんですか。アンヘルです。出席でお願いします、はい。
それでは、お嬢様によろしくお伝えください。いえいえ、マスターも乗り気みたいですから……えぇはい。そうですね楽しみにしてます。
お嬢様がサプライズを用意して……えぇ、大変ですねそれは、はい。
私たちはいつもと同じように入り込んでおきますから……はい。衣ちゃんに首を洗って待っておけと……はい。
それではよろしくお願いします」
先ほどのつまらなそうな声とは打って変わっていた。電話を取ったときの母親と同じような変貌の仕方だった。龍門渕に対してというより権力に興味がないだけで、その場所で暮らしている気に入った人たちに対してアンヘルは別の気持ちがあるのだ。
アンヘルが連絡をしている間に京太郎にソックが紙袋を手渡した。
「ほれ、マスター。約束のものだ」
紙袋は本屋でもらえるものである。京太郎に紙袋を差し出すとき、ソックは少しだけ鼻息を荒くしていた。京太郎が受け取ったものはソックに頼んでいた品物である。
入院中まったくやることがなかったので、京太郎は漫画を読んで暇をつぶしていたのだ。入院患者が好きなように読めるマンガというのが休憩室のような場所にある。
ソックに頼んでいたのは休憩室においてあった漫画の続きである。思いのほか面白かったので、お金を渡して頼んでおいたのだ。京太郎の仲魔は実に忠実にお願いを果たしてくれていた。
ソックが妙に鼻息が荒いのは、彼女もまた続きが気になっているからである。京太郎が興味を持っていたのをみてマンガに手を出して、そのまま抜けられなくなっているのだ。
ソックが紙袋を差し出すと京太郎は紙袋を手に取った。そしてソックに礼を言った。
「ありがとうソック。助かった」
京太郎はずいぶん嬉しそうにしていた。何せ非常に中途半端なところで、単行本がなくなっていたのだ。先が気になってしょうがなかった。そういうものを手に入れたので、京太郎はニコニコしてしまうのだ。
紙袋を受け取ってニコニコとしている京太郎を見て、連絡を終えたアンヘルがこういった。
「何ですかそれ?」
自分のマスターが何かソックにお願いをしているのは知っていた。しかしいちいち自分のマスターに問うのは仲魔としてどうだろうと自重していた。
しかし今、このタイミングならば、聞いたとしてもそれほどおかしくないだろうと彼女は試しに聞いてみたのだ。男子高校生だと答えにくい書物なのかもしれない、とも思ったがそれはそれで面白そうなのであえて踏み込んでいた。
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