132: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/04/21(火) 02:22:32.43 ID:8uChUkcw0
わずかに姿勢を崩していた一人目の女性がありえない速度で体の姿勢を整えて、京太郎の胴体に飛び掛ってきた。
京太郎が見事に握手をかわしたところで、女性の体から魔力があふれ出し、二つの輝く赤い目に力が満ちたのだ。
そしてあっという間に姿勢を整え京太郎にタックルを放った。京太郎の暴走気味の集中力を持っても、目で追うのが精一杯の速度だった。
二回目の出会いで、京太郎がいいようにやられた刹那の単位から繰り出されるタックルそのものだった。
両手を大きく広げて、京太郎を抱きしめようとしていた。これまた、怪しい女性の遊び心である。京太郎が遊びたいというのなら、こういうことだろうと理解して行っていた。
退屈を殺してくれた宝物が遊びたいというのなら、この程度たいしたことはなかった。むしろ楽しかった。
かろうじて怪しい女性のタックルを京太郎は避けた。タックルを決めようとする女性の動きに合わせて、背後にこけるような姿勢で飛んだ。
しかしこれは思い切り飛んだのではない。爪先立ちの状態から、かかとを地面に打ち付けるだけの動きで後ろにこけるように飛んだのだ。普通なら体は浮き上がることもないだろう。無理に行ったとしても、胴体を狙うタックルをかわすには少しばかり距離が足りない。
ただ、普通の身体能力だったらの話だ。京太郎の能力ならば女性の手の範囲から逃れることができる。しかし、あまりよい回避の仕方ではない。足が地面につかなくなるのだから、次につながらない。
だが、刹那の単位で動いている怪しい女性に対抗できる動きが、爪先立ちの状態から、かかとを落とすだけの動きだけだったのである。
京太郎の身につけている技術では、これ以外は時間がかかりすぎて選べなかった。怪しい女性の魔力が膨れ上がった瞬間から、京太郎は背後に飛び始めていたが、それでもぎりぎりだった。
怪しい女性の爪はヤタガラスのジャンパーの前面部分を掠めている。ほかの行動をとっていたら前回と同じようにつかまっていただろう。
刹那の単位で行われた回避劇。怪しい女性の両腕が空をきったのを回避しながら見て京太郎は笑みを浮かべた。やっと一泡吹かせることができた。
「好きなようにやられて子供みたいになでられて黙っていられるか」
そんな気持ちでいっぱいだった。
しかし京太郎の笑みが続いたのは本当に一瞬のことだった。後ろにこけるような回避運動を取った京太郎の体は、地面に着地しなかったのだ。
誰かが京太郎のわきの下に手を突っ込んで、抱きかかえたのである。
京太郎は何が起きたのかさっぱり理解できなかった。なにせ目の前の怪しい女性は京太郎をつかみ損なっている。それは確かなことだ。京太郎はしっかりとよけた。理屈が合わない。
しかし周りにいた者たちは何がおきたのかよくわかっていた。怪しい女性が生み出した分身。こいつが京太郎を捕まえた犯人である。
数秒ほどほうけた後で両脇の下から伸びている二つの腕が自分を抱きしめているのを認め、自京太郎は敗北を理解した。笑みなどまったく浮かびもしなかった。しなびていた。
自分よりもずっと背の低い怪しい女性に抱きかかえられた京太郎は地面に下ろされた。しかし怪しい女性の分身は京太郎の胴体から手を離していなかった。後ろから抱きしめられている京太郎は、まったく抵抗する様子がなかった。
「敗北したのだから好きなようにしてくれればいい」
という気持ちであきらめているのだ。どことなくふてくされているような京太郎の両手を怪しい女性の本体が両手で握った。
ちょうどつないだ手でわっかができるようなつなぎ方である。
そして怪しい女性は握った両手をぶらぶらと揺らしていた。小さな子供をあやすような感じがあった。
つながれている両手からはマグネタイトがやり取りされている。京太郎のマグネタイトが怪しい女性の望むものなのだ。
そして十秒ほどたった。すると怪しい女性は京太郎の手を離した。また女性の動きに合わせて怪しい女性が作り出した分身が、京太郎の胴体から離れていった。
怪しい女性の分身が、京太郎から離れていくとき、そばで見ていたディーを思い切り睨みつけた。怒りというよりも憎しみが強くあった。
なにせ最高に楽しい気持ちになり、いよいよ宝物を大切に保管しようと考え始めたところで、邪魔者が殺気で怪しい女性に水を差したのである。
「この邪魔者がいなければ、好きなようにできるのに」
こんなにも腹の立つことはない。
かなりいらだちながらではあるが、怪しい女性の本体と分身は霞のように薄くなり、完全に消えうせた。消えうせるとき輝く赤い目は京太郎をじっと見つめたままだった。獲物を狙う畜生の目だった。
怪しい女性が消えた後、京太郎は立ち上がった。明らかに落ち込んでいた。怪しい女性と立ち会う前のやる気に満ちた表情はどこにもない。
立ち上がったのは、いつまでもこの異界にいるわけにはいかないとわかっているからだ。いいようにやられたことで、頭が冷えてきたのだ。
今は龍門渕に戻る必要がある。そうしないといつまでも道だけの世界で迷う羽目になる。それは困る。だから立ち上がった。
「怪しい女性が分身したことに気がつかないばかりか、背後に回りこまれているのにも気がつかなかった。失敗どころの失敗ではない。
気がつくだろう普通。情けない」
という気持ちなど、押し殺さなくてはならないのだ。それは後で考えるべき気持ちである。京太郎は何とか自分に言い聞かせて、立ち上がったのだ。本当なら、叫びたいくらいに悔しいことだけれども、今はそういう時ではなかった。
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