過去ログ - 京太郎「限りなく黒に近い灰色」
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170: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/04/28(火) 01:56:14.94 ID:Z22ZBlJ80
 自分の観察の結果を虎城が説明し終わり、車の中が妙に静かになった。少しだけ間を空けてから京太郎はうなずいた。そして

「わかりました」

といった。自分のことなのに、京太郎は冷えていた。淡々としてまったく自分に興味がないらしかった。

 冷えた返事をしたのは、しょうがないと思ったからである。わめいてもしょうがない。こういうこともあるだろうと割り切ったのだ。

 そして、自分が何を求め、どのように歩いていくのか。おぼろげながら道が見えてきたことで京太郎は冷静になっている。

 「全身全霊で戦うことを楽しみと思う自分がいる」

 この欲求を自覚できたことで心が静まっている。頭が働くからこそ、心が静まるのだ。この静かさは目的地が定まったことでおきる静かさである。心を決めたから騒がないという姿勢である。

 そして、目的地がわかったものは手段を求めるようになる。旅行の目的地が決まれば、車で行くのか、飛行機で行くのかを決められるように、欲求を果たすために選ぶ道も見えはじめるのだ。

 京太郎は冷静に自分の目的を果たすための手段を選び始めていた。しかしほとんど悩まなかった。

 選ぶ道は秘密結社ヤタガラスだ。普通に生きているよりも京太郎の願いをかなえるチャンスが多く訪れるだろう。すでにヤタガラスの関係者虎城とディーから誘いがかかっているのだから、これに乗ればいい。

 しかし熱に浮かされてはしゃぐことはない。目的と手段が決まったからといって、これでいいといって、飛び込めない。目的と手段が決まったことでよりいっそう頭は冷えてきて、客観的に自分を見つめられるようになったのだ。

 まともな自分がささやくのだ。

「選ぶ道は悪徳の道、明らかに修羅の道」

 さらにまともな自分がささやくのだ。

「やめておけ。誰もほめてくれない道だ。何も生み出さない道だ。苦しいだけの道に違いない。命を奪うしか能のない存在を誰が大切にしてくれるのだ?

 思い出せ。悪魔と戦いどれほどの血を流した? 死にかけたことも一度や二度ではないだろう? 自分の血溜まりでおぼれたいのか?

 思い出せ。オロチの世界に来て出会った怪しい女性のことを。あの怪しい女性にいいようにやられたのを忘れたのか?

 お前が生き残れているのはたまたまだ。才能があるからでもなく、努力があったからでもない。たまたま生き残れているだけだ。運がよかっただけだ。いつ命を奪われるかもわからない。

 どうして命を捨てるようなまねをする。

 大事に生きていけばいいじゃないか。

 たとえ退屈を抱えることになったとしても、死ぬよりはいいだろう?

 もしかしてお前は平穏無事に生きている人間が畜生にでも見えているのではないか? 柵に守られた牧畜だと。

 今ならまだ間に合う。心を入れ替えて祈れ。神に許しを請え。戦いを望む獣を持って生まれたことを罪として祈るのだ。

 そうすれば、平穏無事な生活をおくれるだろう」

 頭の中で、冷静な自分がいくらでも語りかけてくる。

 しかし心は修羅の道を選んでしまっていた。理由は非常に簡単だった。

「進む」

と決めていた。自分の心にしたがって、正直に決めていた。

 決めてしまっていた。これだけだ。これだけで、世間一般の道徳を引き裂いた。たとえ、聖人に説教されようがこの決定は変わらない。あまりにも早い決断である。

しかし正直な決断だった。振り返って思い返すことがあれば、愚かと思うはず。しかしそのときが来ると思っていてもとめられない。後悔することになるだろうが、とめられなかった。

 声の調子というのが冷えていたのは、京太郎の変化が声に乗ったのだ。虎城に悪意があったわけではないのだ。ただ冷静に、第一歩を踏み始めたため、冷淡に見えたのであった。


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