過去ログ - 京太郎「限りなく黒に近い灰色」
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177: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/04/28(火) 02:21:18.39 ID:Z22ZBlJ80
 怪しい女性がフロントガラスから離れると京太郎は助手席から降りた。そのとき京太郎はこういった。

「虎城さんはここでおとなしくしていてください。異変を察してディーさんが戻ってくるはずです。俺でもわかるくらい魔力を放っているのだから、気がついてくれるでしょう」

 遺言のようにも聞こえた。事実、京太郎はここで終わることも覚悟していた。なぜならばこの怪しい女性と立ち会い、生きていられるのかは怪しい女性の心ひとつで決まるからだ。
以下略



178: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/04/28(火) 02:26:51.97 ID:Z22ZBlJ80
 しかし怪しい女性の抱擁を京太郎は避けた。一瞬の出来事である。虎城からは怪しい女性と京太郎が姿を消したと思ったら、まったく別の場所に立っていたようにしか見えていない。

 いつのまにか京太郎はスポーツカーの前方三メートルほどのところに立っていて、いつの間にかスポーツカーの左斜め後ろ二メートルの位置に怪しい女性は移動していたのである。

 すぐに京太郎の異変に虎城は気がついた。京太郎の体から血が流れ出ていた。服の上からもわかる。服の色が血液で変わり始めていたのだ。皮膚が裂け、服の下の京太郎の体が血でぬれはじめているのだ。また、鼻から血が流れ出ていた。
以下略



179: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/04/28(火) 02:30:12.30 ID:Z22ZBlJ80
 怪しい女性が三つに分かれたのをみて、京太郎は姿勢を整えた。かかとをわずかに上げて爪先立ちになりひざを軽く曲げて腰をわずかに落とした。

両腕をだらりとリラックスさせて、自由に動かせる状況にもっていく。いつでも最高速で動ける姿勢である。

 すでに京太郎の頭の中に無駄なものはない。目の前の強敵に一泡吹かせてやるという闘志と、全身全霊でぶつかる喜びだけで動いている。
以下略



180: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/04/28(火) 02:33:40.58 ID:Z22ZBlJ80
 京太郎と怪しい女性のやり取りが始まって、あと少しで一秒が過ぎるというところ。怪しい女性は天と地がひっくり返る体験をした。視界が百八十度回転したのだ。そして怪しい女性は背中に大きな衝撃を受けた。

 京太郎が飛び込んできてくれたと喜んだ次の瞬間、怪しい女性は自分の分身二体とぶつかってひっくり返っていたのだった。

 怪しい女性は何がおきたのかがわからない。当然である。柔道の技、「肩車」からの「背負い投げ」を怪しい女性にかける人間など、今までいなかったからだ。
以下略



181: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/04/28(火) 02:37:01.17 ID:Z22ZBlJ80
 地面に伏せっている京太郎の姿は芋虫のように見えた。どうすることもできずにただもがくだけの哀れな虫けらである。しかし格上に一泡吹かせた虫けらだった。

 これが暴走の代償である。身の程を知らずに上級悪魔の領域に足を踏み込んだものの末路である。本来なら手が届かない相手のステージに立つために無理をしたのだ。この程度で済んでいると見るほうがいいのかもしれない。

 たとえ、死にかけているとしても、ましだったと思わなくてはならない。神経がしびれ、筋肉は千切れていても。毛細血管が裂けてだめになっていても。また無理に働かせたために領域ごとの仕事に混乱が起きている脳みそであってもましだったと思わなければならない。
以下略



182: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/04/28(火) 02:41:15.28 ID:Z22ZBlJ80
 何にしても怪しい女性の指先はあと少しのところで京太郎に届かなかった。

 京太郎が稼いだ一分足らずの時間が、ディーに帰還を遂げさせたのである。京太郎の不思議に気を取られ、考え事をして、そして生まれた一分足らずの時間。京太郎の無茶は怪しい女性にほんの少しだけ時間の無駄づかいをさせた。

 一分未満の時間でできることなどほとんどない。しかし音速のステージで戦うものたちにとって、一分未満は長すぎる。
以下略



183: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/04/28(火) 02:45:12.90 ID:Z22ZBlJ80
 そうこうしている間に京太郎の回復が完了した。虎城はずいぶん消耗していた。京太郎の肉体の損傷が、激しいものだったからだ。

しかし虎城は見事にやりきった。虎城も消耗していたのを考えると、ずいぶんがんばっていた。流れる汗がその証拠である。しかし彼女は満足げに微笑んでいた。

 そして虎城は京太郎に声をかけた。
以下略



184: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/04/28(火) 02:49:10.19 ID:Z22ZBlJ80
 完全につながった京太郎は情報の奔流の中で、女性の正体に行き着いた。推理の必要はない。空から見下ろしているものが女性の本当の目であるとわかれば、その正体はすぐに明らかになる。

 京太郎の目につながってる怪しい女性の本当の眼球は、蒸気機関がつくる雲のはるか彼方にある。京太郎は、雲のはるか向こう側にあるものを知っている。空を占拠する、超巨大な光の塊。太陽ではない奇妙な光。これだ。これが怪しい女性の本当の眼球なのだ。

 ならば、その正体とは、たった一つである。オロチだ。怪しい女性とはつまりこの世界そのものなのだ。葦原の中つ国の塞の神と呼ばれている道の九十九神、この神が京太郎を狙っていた。
以下略



185: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/04/28(火) 02:54:34.97 ID:Z22ZBlJ80
「修羅場は終わりだ」

 ディーが一息ついたところだった。京太郎を抱きしめていたオロチの触覚が京太郎から手を離した。そして立ち上がった。体が薄くなり消えかけてきた。しかしまだ輝く赤い目があきらめていなかった。

 奇妙な行動をとりはじめたオロチの触覚にディーが攻撃を仕掛けるよりも早く、オロチの触覚は京太郎に頭突きを行った。頭突きである。自分の額を京太郎の額に思い切りぶつけたのだ。ものすごく深くお辞儀をする格好で行われていた。
以下略



186: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/04/28(火) 02:58:55.09 ID:Z22ZBlJ80

 ディーの胸の奥にあった失敗と後悔の感情は少しだけ薄まっている。無茶なことをやって死に掛けた京太郎が能天気な笑顔を浮かべているのを見て、ここで悩んでもしょうがないと頭を切り替えたのである。

場違いな笑顔が、頭を冷やすきっかけになったのだ。今は、悩むようなときではない。それを理解できたから、龍門渕へ帰るために動き出したのだった。

以下略



187: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/04/28(火) 03:03:12.03 ID:Z22ZBlJ80
 男二人ががっくり落ち込んでいるところで、虎城が大きな声でこういった。

「さぁ、オロチの動きも落ち着いたことだし龍門渕に向かいましょう。ディーさんも須賀くんも元気出して。ね?」

 虎城はずいぶん無理をしていた。顔色が悪くなっていて、覇気がない。もともと虎城は無茶な逃亡手段をとって、体力も気力も消耗している状態だった。
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