過去ログ - 京太郎「限りなく黒に近い灰色」
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205: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/04/28(火) 04:32:44.91 ID:Z22ZBlJ80

 京太郎がディーに話しかけたとき、悪魔に変化した松常久たちが、京太郎、ディー、オロチの三人に襲い掛かった。生身の肉体を持った四十近い数の悪魔がみなそれぞれに一番殺しやすい方法をもって襲い掛かっている。

魔法を唱えているものもいれば、牙で噛み付きにかかっているものもいる。刀のような武器を構えているものもいれば、拳で挑んでくるものもいる。

 このさまざまな四十近い悪魔たちだが狙う獲物もまたそれぞれにあった。ディーを狙うもの、京太郎を狙うもの、そしてオロチの触角を狙うものである。ディーをまず始末しに向かったのはディーが一番の戦力だと判断した冷静なものたちだ。まずは一番強いものを始末するべき、それが彼らの考えだった。

 京太郎を狙ったのは、京太郎を恨んでいるものたちだ。京太郎の稲妻での攻撃を根に持っている。だから一番に始末してやろうと考えた。

 オロチの触角を狙ったのは、弱いものを一番に殺してしまったほうがいいと考えるものたちだ。オロチの触覚は誰の目から見ても弱っている。ならば、一番弱いものから殺してしまえばいい。誰が何を思い、襲い掛かるのかはそのものの自由だ。最終的に京太郎とディーと虎城を始末できればそれでいいのだから。
 
 松常久たちが襲い掛かってきたわずか一秒後のことである。オロチの腹の中が血霞でよどんでいた。風船が破裂するような音が何度も聞こえてきて、空気が真っ赤に染まったのだ。そしてヘドロのように臭うマグネタイトが散らばった。

これには京太郎も鼻を覆った。強烈な悪臭に耐えかねたのだ。

 そんな地獄絵図の中で、世間話をするような穏やかな調子で京太郎の質問にディーが答えた。

「いや、松常久だけだ。マグネタイトの保有量が一人だけ圧倒的に多い。

 そうか、こうやって使うつもりだったのか、人身売買に使うとばかり思っていたが、悪魔に堕ちた自分の予備バッテリーにするつもりで……外道め」

 京太郎の指摘を受けたディーはすぐにマグネタイトの量を調べたのだ。そうすると一人だけ極端に高いものがいた。それが松常久だった。

 ディーが非常に落ち着いて答えられたのは、戦い自体がすでに終結しているからである。音速のステージで戦うディーにとって百キロ二百キロのスピードで戦うものたちなど、ハエが止まるほど鈍い。

ディーは自分に襲い掛かってくるもの、そして京太郎に襲い掛かるもの、またオロチに襲い掛かるものをあっという間に、排除したのだった。特にこれといった技術は使っていない。普通に殴り、普通に蹴り、血霞に変えた。

 残ったのは、襲い掛からずに逃げようとしていたサマナーと松常久だけである。四十名のサマナーはいまや三人しか残っていない。それも戦う気力のないものである。

 かろうじて松常久は生きている。しかし両足を吹っ飛ばされていた。

 松常久が生きていられるのはディーが仕損じたためでもなければ、上級悪魔相当の潜在能力が助けてくれたわけでもない。松常久の腹に埋め込まれている生き人形を回収するためである。

ディーの攻撃の余波で生き人形が壊れてしまわないように、手加減をしたのだ。

 松常久から生き人形を回収しようと京太郎が動き出した。そのときに、オロチが叫ぶ。悲鳴だった。うずくまっていたオロチは震えていた。

そしてオロチが創った世界が大きく揺れる。四方を囲っていた壁が溶けはじめた。ヘドロのような不味いマグネタイトにオロチは耐え切れなくなったのだ。気持ちが悪くてしょうがない。

ほんの少しだけ垂れ流されたマグネタイトだけでも気分が悪くなったのだ。それが大量に放出された。悪魔になったサマナーたちを始末したときに血霞になったのが決定打になったのだ。オロチは完全に腹を壊していた。

 オロチの世界がぐらぐらと揺れ始めた。ディーが叫んだ。

「不味い、引きずり込まれる!」

 オロチの絶叫と同時に今いる場所が、いっそう深いところに沈もうとしているのがわかったのだ。

 ほんのわずかなディーの迷い、一瞬だった。京太郎にオロチの触覚がしがみついていた。オロチの触覚は必死だった。なんとしても京太郎を逃すまいと必死に両手両足を京太郎に絡みつかせている。

 ヘビが獲物を絞め殺しているようだった。しかしこれはオロチにしてみれば大切な宝物を守ろうとしているのであって、悪意はない。人間でも同じようなことをする。大切なものはしっかりとしまっておきたい。誰にも渡さないために安心安全な場所に保管するのだ。

オロチも同じ考えなのだ。ただ、保管する場所が物置だとか金庫ではなく、巨大なヘビの腹の中であるというだけの違いである。

 オロチの触覚に絡みつかれている京太郎だったが少しもオロチを見ていなかった。まったく見ていない。ただ、奈落へ落ちていこうとする世界の中で、悪魔に堕ちた松常久を睨んでいる。輝く赤い目は、京太郎がまだあきらめていないと教えてくれていた。

 確かに、とんでもなく大きな範囲が深く深く沈みこんでいる状況は悪いだろう。しかし、それに何の問題があるのだろうか。

 また、オロチの触覚がしがみついてくるからといって何の問題があるのだろうか。まだ、沈みきってはいないし、弱っているオロチの触覚の力は動きを妨げるほどのものでもない。右腕だけなら万全に動かせる。なら、やることはひとつだ。松常久の腹に埋め込まれている誰かを奪い取る。

 京太郎は、激しい頭痛も血涙もどうでもよくなっていた。ただ、目の前の松常久を始末したかった。激しい怒りが一歩踏み出す力になっていた。




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