過去ログ - 京太郎「限りなく黒に近い灰色」
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208: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/04/28(火) 04:45:54.48 ID:Z22ZBlJ80
 松常久が京太郎に向けて突進を行ってくる中で、オロチが動き出した。しがみついていたのに、京太郎から手足を離したのだ。そして京太郎の邪魔にならないところに移動した。透明な涙を流す京太郎をオロチの触覚はじっと見つめていた。

 京太郎のことがいよいよ理解できなくなったのである。京太郎の目を通して涙した理由をオロチは見たのだ。霊的なラインを応用して、過去の光景も見た。しかしそれでもわからなかった。

 はじめは掃除をしてくれるやさしい少年という印象しかなかった。石碑を掃除してくれるものなどいなかったから、うれしかった。

 次に感じたのはおいしいマグネタイトを持っているのだな、だった。始めて感じる幸福感があった。

 その次には自分の宝物にしたいと思った。京太郎から受け取ったマグネタイトは最高の美味だった。誰にも渡したくないと初めて思った。

 そして隠して大切にしまっておこうと思った。しかしできなかった。自分よりもはるか格下の京太郎に一本とられてあしらわれた。そのときに興味がわいた。肉体ではなく魂を見たいと思った。

 そして今いよいよ理解できなくなった。なぜ、この瞬間に涙するのかさっぱりオロチには理解できなかった。悲しいのはわかる。悔しいのもわかる。しかし理由に納得できない。京太郎の脳裏にちらついている光景を輝く赤い目から覗き込んでもわからなかった。

 理解したいと思うようになった。わからないから、わかるようになりたい。そのためにあえて離れたのである。現世で京太郎が何を見て何を思うのかを覗き見すれば、理解できるようになるのではないかと考えたのだ。だからあえて宝物から手を離した。

 ハギヨシが用意した大きな鋼の門が光を放ち始めた。深い場所に沈もうとしていたオロチの腹の中が光で照らされていく。視界が白くなっていく。

 光であたりが白くなっていく中で、松常久が京太郎に衝突した。流石に悪魔に堕ちただけあってなかなかのスピードだった。すくなくとも時速百キロは出ていた。マグネタイトを吹き上げながら突進して来る姿はイノシシそのものだった。

 視界がなくなっていく一瞬をチャンスだと捉えたのだ。

「このときならば油断しているはず。視界が白くなっている今ならば不意打ちが決まるだろう」

 しかし松常久は呆気なく吹き飛ばされることになった。

 たしかに鋼の門の向こう側からあふれてくる光で、ほとんど視界はなくなっている。ただ、光だけしかない。影がなくなり形を探すこともできない。しかし、松常久の体が地面に叩きつけられる音と、激痛からくる悲鳴はよく聞こえていた。

 真っ白になっていく視界の中で、京太郎が松常久を迎え撃ったのをオロチだけが見ていた。目が見えなくとも腕は動くし、タイミングを計れるのだ。自分に向かって突撃しているのがわかっていれば、後は攻撃を仕掛けるだけでいい。難しいことではない。

 突進してきていた松常久の頭部を京太郎の右拳は打ち抜いていた。この一撃で松常久の突進を止めた。

 前回と少し違っていることがある。今回は二発打ち込んでいる。右手の一撃で動きを止めて、左手で一発、クサビを打ち込んだ。このときに帽子がぼろぼろになり、ただの布切れになった。

 一瞬の中で行える命を奪うのに充分な攻撃だった。松常久はもう立ち上がれないだろう。ただ、それでも京太郎は悔しかった。

 巨大な鋼の門が完全に開ききった。すると光は消えうせて、後にはぼろぼろの松常久と、逃げようとしていた裏切り者のサマナーが三名。そしてオロチの触角だけが残された。京太郎と虎城とディーは無事に脱出できたのだ。

 開ききった巨大な鋼の門は、そのまま薄れて消えうせた。用が済んだためハギヨシが術を解除したのだ。そして門を守っていたハギヨシの式神たちもあっという間に姿を消した。もう鋼の門も京太郎たちも守る必要がなくなったからである。

 京太郎たちがいなくなると、深い闇に落ちようとしていたオロチの触覚は全ての結界を解き、霞のように薄れて消えた。オロチの触覚は残された松常久たちを無視していた。

ただ、片目をつぶり微笑んでいた。しっかりと自分と宝物がつながっていることを確認したのだ。繋がりがあるとわかれば触角を作っている意味はない。マグネタイトを絞られているのだ。無駄遣いは控えなくてはならない。いらない結界も解いたほうがいい。

 最後の最後まで残ったのは自己再生している松常久と、その部下の三名のサマナーだけだった。彼らはいつの間にか赤レンガで舗装された道の上にいた。

周りには鉄くずと装甲車が何台か残っているだけである。オロチの触覚が全ての結界を解いたため、もともとの場所に吐き出されたのだ。 自己再生を終えた松常久は人間の姿に戻った。

そして大きな声で叫び始めた。絶望の叫びである。京太郎たちが現世へと帰還したのだ。自分はこれで終わりだと理解したのである。しかし、急に静かになり、笑い始めた。

 そしてこういった。

「ある! まだあるじゃないか生き延びれる道が! そうだ、これでどうにかなるかもしれない。まだチャンスはある! 神よ、感謝します!

 たとえヤタガラスに危険視されることになったとしても私はあきらめない!」

 更に続けてこういった

「お前たち博打に出るぞ!」

 松常久は部下たちに命令を出して動き始めた。すでに松常久は終わっているはず。十四代目に連絡が通り、ベンケイにもハギヨシにも情報が回っている。となれば当然ヤタガラスにも情報が届いているはずだ。どうやっても生き延びれるはずがない。しかしそれでもまだ、もがいていた。

 チャンスは龍門渕のパーティーにある。松常久はこの一点に全てをかけるつもりなのだ。たとえヤタガラスに危険視されるようになったとしてもそれでも生き延びたいのだ。



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