過去ログ - 京太郎「限りなく黒に近い灰色」
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231: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/05/05(火) 00:10:24.50 ID:py78Qnqv0
 松常久の延命についてハギヨシが推測をすると、虎城はこういった。

「十四代目は松常久を怪しいと思っていたはずです。内偵を進めたのもそのため。今回の一件で黒が確定したとみていい。逃げられるわけがない。無駄な足掻きのはず」

 虎城の指摘にハギヨシが答えた。

「無駄でしょうね。しかしあがき続けるでしょう。ここであきらめたら処刑ですからね。潔くあきらめたりはしないでしょう。

 松常久にはいいギャンブルに見えているのでしょうね。

 師匠がこのパーティーに出席していたら一発アウトですけど、今日はひ孫さんのところにお見舞いらしいので、松常久は一つ延命できています。

 師匠がいないとわかって調子に乗った松常久はこんなことを考えているのではないでしょうか。

『なんの確証もない松常久を裁くのは不利益が多いと、ヤタガラスの幹部達に思わせたい』

 今日のパーティーにはヤタガラスの関係者しかいませんからね、演説をするにはいい状況でしょう。

 灰色の状況で松常久を切るためには、確固たる証拠が必要になります。そうしなければほかの下部構成員たちが疑心暗鬼になる。

 六年前に私たちが幹部達を始末したのを知らないものはいませんからね。

『幹部でも切り捨てるのだから、下部の構成員などゴミのように捨てられるのではないか』

 構成員から大量の疑心暗鬼を生みたくないのならば、自分を見逃せと暗に伝えているのですよ。

 松常久は、なかなかのギャンブラーですね。即始末されるかもしれない恐怖を乗り越えて演説をしているはずですよ」

 そして更に続けてこういった。

「まぁ、このパーティーを乗り切れたらスケープゴートでも用意するつもりでしょう。記憶をいじったスケープゴートをね」

 ここまで言い切るとハギヨシは歩き始めた。歩きながらハギヨシはこういった。

「パーティー会場に向かいましょうか。さっさと始末してしまいましょう」

パーティー会場に向かうハギヨシはすでに結論を出していた。

「松常久の賭けは負けだ」

 なぜ松常久の敗北だといえるのか。それはヤタガラスの幹部達は松常久のゆさぶり程度で揺らぐことはないと確信しているからだ。仮にこの程度の揺さぶりで揺れる幹部がいたとしたら、六年前のハギヨシとディーは楽に天江一家を助けることができただろう。

六年前のハギヨシとディーの所業からすれば、まったく松常久の演説など比較に値しない。今のハギヨシにあるのは、好き勝手に演説をぶちまけている松常久をどういう方法で始末するかというひとつだけだ。


 ハギヨシに続いて、ディーと虎城が歩き出した。二人はハギヨシの少し後ろを歩いていた。

 そしてハギヨシの話を黙って話を聞いていた龍門渕透華と井上純がそろって歩き始めた。

 ハギヨシを追うディーは冷静になっていた。ハギヨシがずいぶん怒っているのに気がついているからだ。もしものときは自分が止めなければならないとディーは冷静さを取り戻していた。

 ディーの後に続いたのは虎城である。何とか彼女は自分の足で歩けていた。やることがまだあるとわかっているからだ。気力を振り絞っていた。

 大人三人の後を追いかけるのは龍門渕透華と井上純である。見知ったハギヨシとディーから漂ってくる修羅場の気配に彼女たちは萎縮していた。話に聞く修羅場と実際に体験する修羅場とでは精神的にかかる圧力というのが違うのだ。彼女たちはこういう体験は初めてだった。




 パーティー会場では、松常久がわめいていた。ずいぶん顔色が悪かった。汗もかいている。それに足元がふらついていた。マラソンでも走ってきたのかというような調子である。さらに眼球が左右に激しく揺れているのは病院に行ったほうがいいのではないかと思わせる不気味さがあった。

しかしそれでもわめいている。

 わめいている内容は、たいしたものではなかった。

「ライドウが自分をはめようとしている」

とか、

「ライドウの弟子たちが自分をはめるために動いている」

とか、

「ライドウの弟子たちはヤタガラスに敵対するようなまねをしたではないか。今回もそうだ。十四代目の一番弟子のベンケイも二番弟子のハギヨシも私をはめるために口裏を合わせているのだ。
 私に読心術をかけて情報を奪い取ろうとしている。私の頭の中には貴重な知識が山ほど詰まっているから、それを欲しているのだ!」

などのようなものである。およそハギヨシが予想したとおりの演説だった。ただ、龍門渕とライドウを罵倒する言葉が予想よりも多く見られた。



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