24: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/03/31(火) 05:25:58.85 ID:w4MVYybr0
ハギヨシが離れていくと、ヨモツシコメはこういった。
「マスター、全部だしぃな、あんたの呼べるヨモツイクサ五十体。戦い終わったら動けなくなっていてもいいくらいの気持ちでやらんとまけるで」
ヨモツシコメは整った顔をしかめていた。そして心の底から忠告していた。
ヨモツシコメは魔人という存在が侮れないものであるというのを常識として知っているのだ。
そのためマグネタイトの総量で強さをはかれると思っている自分のマスターに敗北が待ち構えていると知らせているのだ。
確かに、悪魔たちはマグネタイトをたくさん持っているものほど強い。これは間違いない。マグネタイトが悪魔の肉体そのものなのだ。多く持っているものほど肉体は大きく強くなる。
しかし、魔人は違う。人の性質と悪魔の性質を持っているのだ。マグネタイトの総量が少ないから弱いという話にはならない。そもそも大量のマグネタイトを持っている悪魔であっても少量のマグネタイトしか持たない人間に敗北するのだ。油断などすれば、どうなるかなどいうまでもないだろう。
ヨモツシコメがこういうと、沢村智紀はこういった。
「えっ? でも、そんなことしたら」
余力がなくなり動けなくなる、と沢村智紀は続けようとした。
しかしそうもいっていられないようになった。彼女はおとなしく、契約している仲魔の全部を呼び出した。総勢五十一体。ヨモツシコメが率いるヨモツイクサの軍勢である。ヨモツイクサはふんどし一丁の筋骨隆々の男たちである。
またヨモツイクサたちはかぶり笠(かさ)をかぶっている。昔話のかさ地蔵でおじいさんがお地蔵様にかぶせたものと同じタイプである。
ただ、今回の笠の下にお地蔵様のやさしい微笑みはなく、むき出しの頭蓋骨があるだけである。
ヨモツシコメが軽く右手を上げると、五十体のヨモツイクサはヨモツシコメを守るように隊列を組み始めた。ちょうど、サマナー沢村智紀とヨモツシコメを中心にして、輪を作るような形である。高いところから見るとドーナッツのような形である。
この形を作ったヨモツイクサたちはマグネタイトで槍を作り出して、京太郎に突きつけて見せた。
ヨモツイクサを展開した沢村智紀は非常に不本意そうだった。しかししょうがない。沢村智紀が文句を言おうとするとヨモツシコメが尻をたたいてくるのだから。
しかしこれで大丈夫だという安心感が沢村智紀の表情から見て取れる。これだけの軍勢、京太郎が抜けるわけがないのだから。
数をそろえて上手く立ち回れば上級悪魔さえ討ち取ることができるのだ。ならば当然、京太郎を討ち取ることができるだろう。多く見積もってもマグネタイトの総量はレベル二十程度。
「目覚めたばかりの魔人など、たやすく退けられる。たとえサマナーたちが恐れる魔人という存在であっても、レベルの差は絶対だ」
そう思っていた。
沢村智紀の呼び出した悪魔の群れを前にした京太郎はちらりとハギヨシのほうをみた。これから戦うというのにずいぶん気弱な目をしていた。
京太郎はさっぱりどのタイミングで戦いを始めていいのかがわからないのだ。もしもスタートを読み間違えるようなことをしてしまえばどうなるか。
きっと、失敗扱いだろう。京太郎はそれがいやだった。やるのならしっかりとやりたかった。
そしてハギヨシと目が合ったところで京太郎はこういった。
「もういいですか?」
少し声が震えていた。恐れているわけではない。目の前にそろった悪魔の群れと悪魔たちの独特の空気が京太郎の胸を弾ませているのだ。この震えは、武者震いである。
ハギヨシは京太郎に答えた。
「もちろん、どうぞ」
実にやさしげな微笑を浮かべてあった。
京太郎とハギヨシのやり取りを見た龍門渕の面々はやや気の抜けた笑みを浮かべた。
龍門渕透華も井上純も沢村智紀も国広一も天江衣もこれからおきることが予想できているのだ。京太郎の敗北である。数の暴力で、京太郎が圧殺される。しかも京太郎よりも質のいい悪魔の軍勢で。
つまり勝負にならないと思っているのだ。
馬鹿にしているわけではないのだ。すくなくとも京太郎を笑っているわけではない。
あまりにも圧倒的な状況を見ると笑うしかないということがあるが、それと同じである。やる意味があるのだろうかというようなあきらめの感覚に違いない。
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