242: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/05/05(火) 00:50:05.46 ID:py78Qnqv0
会場にいた者たちは京太郎の姿から全てが終わったと察した。
京太郎の手の中にある五体の生き人形。ぼろぼろになってしまった京太郎の服。そして輝く赤い目から流れている血涙。赤く染まった京太郎の両手。京太郎の姿は尋常なものではない。明らかに怪しい。しかし京太郎の浮かべる表情が終わりを教えてくれていた。もう、戦いに向かうものの空気ではなかった。
京太郎の姿を見た出席者の何名かは、鼻を鳴らしていた。泣いているわけではない。京太郎の血の匂いをかいで、鼻を鳴らしたのだ。この何名かの気持ちというのはオロチと同じ気持ちである。
松常久の三人部下、黒服だったものはハギヨシとディーによって始末されていた。すさまじい早業だった。京太郎が始末した松常久とは違い、抵抗しなかった。ぼこぼこにされるとすぐに人の姿に戻っていた。そして三人の部下たちは、事件の真相を話すから命だけは助けてくれと叫んでいた。
騒然とするパーティー会場の中でハギヨシが京太郎にこういった。
「松常久は黒です。悪魔に変ずる技術を使い、構成員たちを襲った。そして人形化の呪いを使いマグネタイトを吸い上げていたようですね。構成員たちの遺体がなかったのは人形にされて連れ去られていたからでしょう」
ハギヨシの声は会場全体によく響いていた。京太郎に向けての言葉だったけれども、会場に事情を説明するための言葉でもあったのだ。全体にわかるように話をすることで会場の沈静化を狙ったのである。そして、龍門渕と虎城にかけられた疑いを晴らし、名誉を回復するように動いたのだった。
両手を赤く染めている京太郎にハギヨシがこういった。
「後は私に任せてください」
ハギヨシは軽く両手を叩いた。すると龍門渕のヤタガラスたちが現れた。京太郎が龍門渕に来たときにすれ違った人たちである。彼らはあっという間に三人の黒服を黙らせて、松常久を動けないように縛り上げていった。
龍門渕のすばやい対応を見て京太郎はうなずいた。松常久たちがこれからどういう扱いを受けるのか京太郎はまったく興味がわかなかった。専門家に任せればいいのだ。京太郎はやることをやった。口を出すことも手を出すことも、もうない。
龍門渕のヤタガラスたちが松常久の口をふさごうと動いていた。松常久はいよいよ人の姿に戻っていた。今はただの小さな中年男性である。自害を防ぐための拘束をほどこされていくなかで松常久は叫んだ。
「悪魔め! 呪われろ! 万物に凶事をもたらす汚らわしい魔人め! いつか正義の刃がお前を貫くだろう!」
間違いなく松常久の断末魔だった。パーティー会場によく響きわたった。叫んでいる間、龍門渕のヤタガラスが拳で殴り黙らせようとしたが、それでも止まらなかった。メイドのお手本のような格好をしているヤタガラスの女性に猿轡をかまされてやっとだまった。
断末魔を聞いたハギヨシがこういった。
「黙れ。悪魔はお前だろうが」
両手を血で染めた京太郎は松常久を見下ろしていた。目と鼻の先にいる松常久を見る京太郎は静かだった。京太郎の胸に痛みもなく断末魔は突き刺さっている。
誰もが一発殴るだろうと思っていると、松常久に背を向けて京太郎は歩き出した。そのときに小さくつぶやいた。
「自分でもそう思っているよ」
京太郎が歩き出したのは、アンヘルとソックの下に行くためである。京太郎の両手にはまだ生き人形が五体あるのだ。これを元の人間に戻す必要がある。京太郎にはできないけれど、アンヘルとソックならばできるかもしれない。松常久にかまっている余裕などなかった。
少し離れたところで全てを見ていたアンヘルとソックのところに京太郎は歩いていった。京太郎の姿を見て、鯨とスズリが少し引いていた。血涙を流している京太郎の姿というのが不気味だったのだ。普段の姿を知っているため、よけいに不気味だった。気分はホラー映画である。
アンヘルの前に立った京太郎はお願いをした。
「この人たちに回復の呪文をかけてもらえないか? 人形のままだと効果はないか?」
京太郎はずいぶん不安そうにしていた。京太郎は呪術の知識がさっぱりない。そのため生き人形というのを上手く直せるのかというのもわからないのだ。アンヘルとソックがだめならば、忙しそうにしているハギヨシに頼まなくてはならないだろう。京太郎はできるだけ早く、被害者を元に戻したかったのだ。
京太郎がお願いをするとアンヘルはうなずいた。
「大丈夫ですよ、私のマスター。人形の呪いは回復の呪文では解けませんが、壊れている部分を治すことはできます。人形のままでも生きていますから」
アンヘルは話しながら回復魔法をかけていた。誰の目から見てもわかる勢いで機嫌がよかった。京太郎に頼りにされているのがうれしいというのもあるが、京太郎が実に面白いものを見せてくれたので、機嫌がよくなっているのだ。
輝く赤い目を超ド級のストーカーから押し付けられたのは悲しいことだったが、目の前で京太郎が見せたパフォーマンスは十分楽しめた。それだけでここに来たかいがあるというものだった。
回復魔法をアンヘルがかけている間に京太郎にソックがこういった。
「人形の呪いは任せてくれ、我がマスター。 一度、解いたことがあるからな楽勝さ。
しかしよかったのか? これでヤタガラス入門は避けられないぞ。ここまで目立ったら一般人には戻れない。龍門渕に所属しなければ、ほかの支部から誘いが来るだけだ。
いつかは入らなくてはならなくなる。あの女を見捨てていれば平穏な暮らしに戻れたかもしれないのに」
背の低いソックは京太郎を見上げながら笑っていた。ソックもまた上機嫌だった。茶番を綺麗さっぱり消し飛ばした京太郎の行動がソックの趣味に合っていたのだ。
京太郎は自分の手の中にあった人形たちをソックに渡した。
そのときにこういった。
「かまわないさ、大したことじゃない。それよりも、呪いをしっかりといてくれ。頼むぞ、ソック」
京太郎は政治的なやり取りの一切に興味がないのだ。だから実にどうでもいいという表情を浮かべて、そういう振る舞いをしていた。
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