過去ログ - 京太郎「限りなく黒に近い灰色」
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28: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/03/31(火) 05:42:16.27 ID:w4MVYybr0
 三分ほどしてからハギヨシが戻ってきた。ハギヨシはジャンパーと帽子を抱えていた。

 ハギヨシは京太郎にジャンパーと帽子を渡した。そして京太郎にこういった。

「ヤタガラスの制服です。これを着ていれば面倒なやからに絡まれることはないでしょう。

 もしも名前を聞かれたりしてもできる限りは名乗らないでください。かりに名乗るとしても偽名がいいですね。

どうしても切り抜けられそうになければ龍門渕のサマナーだといえば大体どうにかなります」

 ハギヨシの説明を聞きながら、京太郎はジャンパーと帽子を身に着けた。帽子の額部分に三本足のカラスのエンブレムがついている。

 また、ジャンパーにも同じく三本足のカラスの刺繍がされている。ひとつは胸の辺りに。もうひとつ、背中に大きく刻まれていた。また三本足のカラスに負けないくらいにはっきりと真っ白な文字で龍門渕とジャンパーの背中に書かれていた。

 ジャンパーと帽子を身につけ、動きやすいようにウエストポーチを京太郎がいじくっていると、ハギヨシがこういった。

「あぁ、そうだ、少し注意してほしいことがあります。

 その帽子にヤタガラスのエンブレムがついているでしょう? そのエンブレムに発信機がついていますから大切にしておいてください。

 もしも道に迷ったりしたときにはそれが助けになってくれます。ディーがいれば問題はないと思いますが、そなえておくのが正解でしょう。

 須賀くんはジオ系統の魔法を身に着けていると聞いています。一発でも撃つと壊れますから使いどころは気をつけてください。おそらくそんなことはないでしょうけどね」

 ハギヨシの話を聞いた京太郎は帽子の額のところにあるエンブレムを見つめてみた。エンブレムには小さな刻印が刻まれていた。アルファベットと数字が組み合わさった文字列である。京太郎はこれを見て製造番号だろうとあたりをつけた。



 京太郎の準備が完了してしばらくするとディーが現れた。カーレースに出ているようなスポーツカーにディーは乗っていた。真っ赤なボディと妙に大きなタイヤが印象的だった。また、どこからどう見ても二人乗りだった。後部座席はない。当然、荷物をつめるような場所というのは見当たらない。

 ディーの運転する車の助手席に京太郎は乗り込んだ。乗り込むとき、京太郎は困っていた。明らかに二人乗りにしか見えないというのももちろんある。

 何せスポーツカーだ。ファミリーカーのように何人も乗れるような大きさではない。となればこれでは荷物を受け取るなどということはできないはず。それは困ったことになる。しかも荷物がクロマグロだというのなら、入りきるわけがない。

 なぜ、この車なのかという疑問はもちろんある。

 しかし問題は荷物をつめるかどうかではなく、スポーツカーの中身が問題だった。車の中身が京太郎を困らせていた。というのが、運転席と助手席は普通なのだ。見たままの状態であった。問題は後部座席があることだ。

 外側からは見えなかった奥行きがあるのだ。軽トラックの荷台ほどの広さが広がっているのだった。

 ありえないことだった。どう考えてもつじつまが合わなかった。まったく何がおきているのか京太郎はわからなかった。

 わからなかったが、乗らないわけにはいかないので、京太郎は乗り込んだ。乗り込むときにも困ったことがあった。

 スポーツカーに乗り込んだとき京太郎は妙な気配を感じたのだ。妙なとしか言いようのない気配だった。ハギヨシを前にしたときの気配に近いが、もっと騒がしかった。答えはさっぱり出てこなかった。

 困りながらも助手席に座った京太郎に運転席のディーがこういった。

「見てなよ、もう少しで門が開く」

運転席のディーは気分が高揚しているようだった。ハンドルを指先でとんとんと叩いて飛び出すタイミングを計っていた。

 京太郎が「門とは何か」とたずねるより早く、中庭に巨大な門が現れた。高さ二十メートルほどの大きな門である。サビついた鋼の扉が地面から生えてきていた。

 また、高熱を持っているのか、湯気が出ていた。京太郎は湯気の匂いをかいで、ずいぶん油くさいと顔をしかめた。

 そして続出する京太郎の疑問が解消する前に門が開き始めた。鋼のきしむ音が聞こえ、扉の向こう側から、蒸気が流れ込み始めた。

 そうして向こう側から流れてくる蒸気はあたり一面を埋め尽くした。

 車の中にいた京太郎などはまったく外の様子がわからなくなっていた。蒸気の白の世界であった。

 門が完全に開ききったところで、ディーがアクセルを踏み込んだ。視界はまったくない。蒸気が視界を埋め尽くしている。しかし何度もくぐった門である。ディーは門が完全に開ききった音を聞き逃さなかったのだ。

 パーティーまで一時間と少しだけしか余裕がない。手加減をして時間を無駄にするわけにはいかなかった。もしもお嬢様のお願いが聞き届けられなければ、数日間はへこんだままだろう。そうなると、送迎のたびにへこんでいる姿を見なくてはならなくなるのだから、がんばらなければならない。


 蒸気をふきだす門の向こう側の世界に急加速して車は突入していった。ありえない急加速で車の中に強烈な圧力が加わる中、京太郎は目を輝かせていた。



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