過去ログ - 京太郎「限りなく黒に近い灰色」
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44: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/04/07(火) 04:14:07.30 ID:Joyq1BtQ0
 蒸気を吐き出す門を潜り抜けて、門の向こう側にスポーツカーが駆け抜けていった。門を潜り抜けたとき、車が一瞬持ち上がった。

 門の向こう側に道がなかったのだ。しかしすぐ地面に着地した。そのとき大きく揺れたがシートベルトをつけていた京太郎とディーに問題はなかった。

 蒸気を吐き出す門を潜り抜け軽い落下を体験した後、蒸気が晴れた。周りがよく見えるようになると、京太郎は目を見開いた。

 蒸気機関とさび付いた金属たちが絡み合うむやみに広い世界が京太郎の前に広がっていたからである。しかし、人が暮らせるような建物はない。ただ、道が広がっているだけの世界であった。

 ほとんどが、道なのだ。横幅五十メートルほどの道がいろいろな方向に向かって伸びていた。それが一本や二本ではないのだ。

 何百本とひろがり、絡み合っている。見える範囲全てが絡み合った道で出来上がっているのだから、壮観である。

 道の脇を固めているのは蒸気機関たちだ。なぜ、蒸気機関たちが道の脇に生えているのかはわからない。蒸気機関たちは草原に生えている草であったり、転がっている石ころのような存在だった。

 ただ、そういうものだから、そこにある。それだけなのだ。

 それでもスケールが違いすぎて、ただの雑草と小石のようなものに度肝を抜かれてしまう。大きくても主役ではないのだ。

 はるか彼方で、煙を噴出す機械たちが絡み合って山のように盛り上がっていてもそれが一つや二つではなく広い世界にいくつも見えていても、この世界のメインではない。

 また、大きく盛り上がっている部分とは反対に、まったく何もない部分もあった。地面にぽっかりと穴が開いているのだ。半径十メートルほどの大きな穴である。奈落に続いているのではないかと思うほど、何もない。

 道が延々と続いている世界にそういう大きな穴がポツンポツンと模様のように大穴があるのは奇妙であった。

 空を見上げれば、大きな光の塊が世界を照らしている。太陽ではないのはすぐに了解できる。なぜならあまりにも近すぎるからだ。

 空のほとんどを占めている大きな光の固まりが太陽であれば、あっという間に世界は蒸発するだろう。しかし、太陽の役割をしているのは間違いなかった。

 そして、大きな光の塊を隠すように雲がかかっている。しかしそれは蒸気機関たちが吐き出したものが集まっただけに過ぎない。この世界で自然な雨は降らないのだ。

 異界に訪れるのは二度目の京太郎である。少しは心の準備というのもあった。しかしあまりにもぶっ飛んだ光景に驚きを隠せなかった。
 

 目を見開いている京太郎を見てディーが言った。

「不思議な光景だろ。はじめてみたときは俺もずいぶん驚いたもんさ。とっくの昔に廃れたはずの蒸気機関が現役で、道を覆うのがレンガ。明かりになるのはガスランタンのような太陽なんだからな」

 現代の空気とはまったく違った光景を見て、驚いたのは京太郎だけではないのだ。始めてこの世界に来たとき驚いたのをディー自身がよく覚えていた。

 そういっている間にアクセルをディーが踏み始めた。アクセルペダルは思い切り踏みこまれていた。ディーはずいぶんとリラックスしていた。しかしまったく油断ない視線を道の向こうにある目的地に向けていた。本当ならば、ゆっくりとドライブしたいところである。

 しかし、時間が押しているので、なかなかゆっくりとやっていられない。特に道が微妙に変わってしまっているということがあるので、いつもと同じ道を使えないのだ。何があるのかわからないので、少し急いでいかなければだめだろう。

 どんどん車が加速していく中で京太郎にディーが聞いた。

「須賀くんはさ、車酔いするほう? もしも車酔いするようなら、少しスピードを落としておくけど。
 とりあえず、ガルからかな……」

 あっという間に百キロ近い速度まで加速した車をまったく問題なく操作しながら気軽に聞いてきた。

 ディーがこのような質問をするのは京太郎を思いやってのことである。助手席に乗っていても車酔いをする人はする。

 もしも京太郎が車酔いをするタイプであったとすれば、手加減をして運転をしなければならない。手加減をしなければ悲惨なことになるだろうから。

 それはディーとしては避けたいことだった。急がなくてはならないのは確かだが、そのあたりはバランスの問題である。

 百キロを超えてもまだ加速する車の中で京太郎が答えた。

「たぶん、大丈夫だと思います。助手席ですし、調子も悪くないから」

 とんでもない速度で変わっていく景色をしっかりと京太郎の目は捉えていた。

 しかし、わずかに顔色が悪い。車酔いが始まったのではない。普通の車ではありえない速度が、出ているのを体全体で感じているからだ。

 そして、こうも思うのだ。

「この速度で運転操作ができるような技術を持っている人間などいない」

 運転をミスすれば大事故は免れない。仮に事故が起きたとしたら、自分もディーも終わるだろう。

 この不安感が、京太郎の顔色を悪くさせるのである。そろそろ三百キロ近くなる車の速度で、何かにぶつかればさすがに京太郎でも無事ではすまないだろう。

 車酔いはしないという答えを聞いて、ディーはこういった。

「それなら少し飛ばしていってもオッケーかな? あまり時間をかけていたらパーティーに間に合わなくなってお嬢にどやされる」

 数秒のやり取りの間にデジタルのスピードメーターが時速四百キロを示しているのだけれども、まったくアクセルベダルからディーは足を離していない。

 それどころか、ちらちらと京太郎に視線をやって視線を道からきるようなことをやっていた。

 ありえない速度で運転しているはずのディーに法定速度を守ってゆっくりと運転しているような余裕があった。

 もともとクロマグロなどがなくともパーティーは、ハギヨシが見事に仕立て上げるだろうとディーは思っている。そのため心に焦りがすくない。

 一応急いでいるのは、もしも時間に遅れるようなことをやれば、龍門渕のお嬢様がへそを曲げるからだ。問題はそれだけである。


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