46: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/04/07(火) 04:22:50.28 ID:Joyq1BtQ0
蒸気機関が軍隊のように整列して規則正しく働いている長い坂道に差し掛かった。
蒸気機関たちは坂道で一列に整列して、同じ姿で、同じように延々と動いている。何が目的なのかはさっぱりわからない。
ただ、動くたびに蒸気が吹き上がるのだ。何かをしているのは間違いなかったが、目的を察するのは難しい。
蒸気機関なのだから、何かしらのエネルギーを使い、何かを作っているのだろうが、力を伝えるための仕掛けが見えないのだ。
歯車とか、車輪とかがない。だから見るものはこう思うだろう。
「無駄な仕掛けだ」と。
坂道を上る間、京太郎は冷めた目で蒸気機関たちを見つめていた。
ディーがスピードを落とし始めたので、延々と続く無駄な蒸気機関たちを眺めることができたのである。
外の無駄な光景を見ていたのは、蒸気機関をだれが何の目的を持って設置したのだろうかと気になったのだ。きっと何かがあるはず。そう思ったから考えた。
一番に思いついたのは作業効率を上げるためという理由だった。一番わかりやすい目的だった。しかしすぐに違うだろうと却下した。
なぜなら、まったくエネルギーを伝える仕組みがないからだ。蒸気機関たちはそれだけで完結していて、つながっていない。
そして次々と蒸気機関を設置したものの意図を推理していった。しかし答えらしい答えは見つからなかった。
坂道をスポーツカーが上りきる寸前で、京太郎は微笑んだ。面白い考えが思い浮かんだのだ。京太郎が思い浮かんだ、面白い考えというのは
「動きたいから動いているのだ。彼らは報酬だとか、そういうものを求めているのではなく、作業の手間を省こうと思って働かされているのでもない。ただ、動くことが目的なのだ。彼らはそうありたいと思って、動いている」
というものだった。
実にありえない結論である。なぜなら、蒸気機関は道具だ。道具は意思を持たない。自由意志などない。使われるだけである。だからおかしかったのだ。まるで、道具が生きているかのような発想ではないか。ただ、このおかしな結論が京太郎の心にはすっと当てはまった。
長い坂道を登りきったところでディーがこういった。
「あー、ここからか。道がかなり変わってるな。ダッピしたのか?」
龍門渕の門から十分ほど走ったところである。ディーは何度かこの場所に来たことがある。この道を通り、先に進むことで異界物流センターと呼ばれる場所にたどり着く道に入ることができるのだ。
しかし、ディーは気配を感じていた。気配とは、この世界の道が微妙に変化してしまったという気配である。よくあることではないが珍しいことではないので、ディーはすぐに理解できたのだった。
スポーツカーのブレーキをディーが踏んだ。坂の頂上を少し走ってスポーツカーは動きを止めた。そのとき京太郎は目を見開いていた。車の外に広がっている光景を見たからである。
それはあまりにも不思議な光景だった。坂を上りきったところから見えるのは、地平線の向こう側までひろがっている無数の道である。このむやみに広い世界はすでに体験していた。問題はその道の上を走るものたちだ。
悪魔たちが走っているのだ。四本足の犬のような悪魔もいれば、馬のようなものもいる。それもたくさんだ。たくさんとしか言いようがなかった。
また、空には鳥のような悪魔もいて隊列を組んで移動していた。これまた数が多く、荷物をぶら下げて飛んでいるドラゴンのような悪魔までいる。
混沌としか言いようがない。
そしてまた不思議なことで悪魔たちの背中に人間らしきものが乗っているのも見えるのだから、これはさっぱりよくわからないことである。
混雑している車たちの流れを見ることがあるけれど、あれに多様な悪魔を加えて、常に流れ続けているような状況にすれば、京太郎の見た光景そのものである。
坂の上でスポーツカーを止めたディーは車から降りていった。そして、車の外に出たディーは地図を取り出して目の前の光景と見比べはじめた。
地図と目の前の光景を見比べているディーはずいぶん苦労していた。眉間にしわがより、目を細めている。
ハギヨシから道の形が変わったとは聞いていたけれども、ここまで激変しているとは思わなかったのだ。
ヤタガラスが作った地図を持っているのだが、この地図と見比べてもさっぱりどこの道が、どの道につながっているのかがわからなかった。
しかしここであきらめてしまったら、間違いなく道に迷いかえってこれなくなるので、ディーも必死だった。
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