過去ログ - 京太郎「限りなく黒に近い灰色」
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47: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/04/07(火) 04:27:24.01 ID:Joyq1BtQ0
 そして少ししてから戻ってきて、車の中で呆然としている京太郎にディーがこういった。

「須賀くん、少し無茶してもいいかな。大分道が変わっているみたいで、ショートカット気味に移動しないと時間がかかりすぎて間に合わなくなりそう」

 かなり申し訳なさそうな顔をしているディーに京太郎が応えた。

「あっ、はい、やっちゃってください」

 今まで京太郎の心の中にあった不安がなくなっていた。元気に答えて、さっさとさきにいこうじゃないかという気持ちで満ちている。

京太郎というのは簡単なものである。

今まで心の中にあった事故になるのではないかという気持ちが、目の前に広がっている珍妙きわまった光景で消え去ってしまったのだ。

なぜか、心臓が弾んでしょうがなかった。

 京太郎が応えるとディーは運転席に乗り込んだ。運転席に勢いよく座り、シートベルトをしっかりと締めて、気合を入れていた。

京太郎が自分の提案を呑んでくれたのをみて

「よしそれならば」

と覚悟を決めたのである。もちろん、自分の運転で京太郎の体調が変化する可能性があると考えているので、様子を見るつもりではある。

しかし助手席の京太郎が、よしといってくれるのならば、全力で走ってみようじゃないかという気になるのだった。やはり全力で動き回るのは楽しいものがある。
 席についてシートベルトを身に着けたディーが言った。

「それで、何だけどちょっと協力してくれないかな。ちょっと無茶をするからさ、なんていうか、その、エネルギーが足りるかどうか怪しいわけよ。それで、ちょっと須賀くんのエネルギーをもらえないかなって」

ディーはずいぶんと情けない顔をしていた。しょげた犬のようだった。

 しかし京太郎に頼まなければ、どうしてもだめだったので頼んだのである。というのが、このディーが運転する車というのは普通の車ではない。

エネルギーがマグネタイトの魔改造スポーツカーである。

 当然だけれども動かすためにはマグネタイトが必要になるのだが、流石のディーであっても本気で車に力を注ぎこみ目的地に到着して、また、そこから帰ってくるというようなことをしようとすると、ぎりぎりエネルギーが足りなくなる可能性が高いのだった。

 そのギリギリというのがどうにもまずい。できるのならば余裕を残しておきたい。もしかしたら不測の事態というのがあるかもしれないのだ。

そして、不測の事態が起きたときにスポーツカーが動かせなくなっているのはまずい。マグネタイトは無限にあるわけではないのだ。

不測の事態が起きたときに消耗して、動けなくなったら最悪だ。

 なぜなら道ばかりが広がる世界というのは無限の砂漠とかわらない。行き先がわかっていないものは迷い、力のないものは息絶えるだろう。

それはどうしても避けたかった。しかも京太郎を隣に乗せているのだ。客人を乗せているのに迷って帰れなくなるというのは最悪だった。

だから、京太郎の手を借りたいと願うのだ。目的を達成しつつ、無事に戻ってくるためには必要だった。

 エネルギーを分けてくれというディーに対して京太郎はこういった。少し困っているようだった。

「エネルギーを渡すってのはいいですけど、どうやって渡せばいいのか、わからないのですが」

 京太郎は魔法だとか、魔法に連なっている技術だというものをさっぱり知らない。そのため、エネルギーを分けたいというように思っていても、どうすればいいのかがわからないのだ。

エネルギーを渡すのはまったく問題ない。そもそも力が有り余っていて感覚がおかしなことになっているのだ。使いたいというのなら使ってもらえばよろしいというのが京太郎の思うところであった。

 京太郎がこういうとニコニコしながらディーがいった。

「あぁ、そんな難しいことじゃないよ。ちょっと待ってね。今出すから」

ディーは胸をなでおろしていた。京太郎がエネルギーを分けてくれるのであれば、問題なくセンターに到着してそして戻ってこれると、ディーは算段をつけたのだ。

 実際、ディーのエネルギーが完全になくなり、動かせなくなってしまえば回復するまでかなり時間がかかる上に、パーティーまでに帰れなくなる可能性も高くなる。となれば、京太郎にうなずいてもらえることがどれほどうれしいことであるかはいうまでもないだろう。

 ディーが左手でシフトレバーをこつこつと叩いた。すると運転席と助手席の間に細長い長方形の箱のようなものが現れた。この細長い長方形の箱は、金属らしい光沢があった。またこの箱は奇妙な鼓動を刻んでいた。

 奇妙な金属製の箱はディーの運転する車につながっていた。

金属製のパイプが血管のようにつながっているところから京太郎はこの細長い金属製の箱がこの車の心臓部なのだろうと察した。

 そして京太郎は奇妙な金属製の箱を見て顔色を変えた。眉をひそめて、金属の箱を睨んでいる。

 奇妙な迫力を感じたのだ。細長い箱自体はたいしたものではないというのが京太郎の感想である。

問題なのは箱の中身だ。とんでもない力の塊がしまいこまれていた。

 魔力という目に見えない力を使うことができるようになっている京太郎には、箱の中に納まっているとんでもない魔力の塊こそ、恐るべきものであった。

眉をひそめたのはそのためである。

 睨み付けたのは箱が刻んでいる鼓動のためだ。箱の中身から感じる奇妙な鼓動。これがいまいちよろしくなかった。

この鼓動のリズムが調子はずれなのだ。狂っていた。音楽の授業でこのリズムを刻んだらきっと零点だろう。間違いなく音楽のセンスがなかった。



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