過去ログ - 京太郎「限りなく黒に近い灰色」
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48: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/04/07(火) 04:32:36.25 ID:Joyq1BtQ0
 調子はずれのリズムに眉をひそめている京太郎にディーが言った。

「これがこの車の心臓部分、というと正確じゃないがまぁ、そういう感じ。
 須賀くんにはこいつにマグネタイトを吸わせてやってほしいのよ。手を置いておくだけで大丈夫。後はこっちでやるからさ。大丈夫そう?
 これお嬢たちに見せたらドン引きしてたからさ、触れる?」

 ディーは京太郎の様子を探っているようだった。京太郎の秘密を暴こうとしているのではない。本当に気分が悪くなっていたら大変であるから、気を使っているだけのことである。

もしも無理そうなら、それはそれでしょうがないという気持ちもあるので、ディーは無理にというようには考えていない。断られれば、ゆっくり走ってゆっくり帰ればいいだけのことだからだ。

自分たちの安全と、お嬢様の愚痴とならばディーは自分たちの安全を優先するつもりである。

 心配そうにしているディーに京太郎が応えた。

「大丈夫ですよ。しかしすごいですねこれ。なんというか、ヤバイのが俺でもわかるっていうか」

強がっていた。しかし、いやだといっているわけではない。ただの感想である。

 感想をつぶやいた京太郎は自分の手を奇妙な長方形の金属の箱に置いた。実に恐る恐る触れていた。口では強がってはいたけれども流石によくわからないものに触れるというのは勇気がいる行為だった。

またものすごくおかしなものに力を注ぐのだから、恐れる気持ちもある。しかしそうしなければ間に合わないというのならば

「しょうがない」

で抑えられる。そのくらいの嫌悪感だ。たいしたことではない。たいしたことがないのだから、触るだろう。

 金属の箱に手を触れた京太郎は、わずかに顔をしかめた。細長い金属の箱に触れている手のひらから、自分の体内に抱えているエネルギーが抜け落ちていくのが感じられたのである。

これがよくなかった。この抜け落ちていくエネルギーの感覚というのが、どうにも変な感じだったのだ。

ほんの少しだけふれるのならば、気がつかないだろうけれども、じっと触り続けたままであればどうにももぞもぞとしていやな感じだった。

 また、金属の箱がエネルギーを吸い取るに従い、わずかに京太郎はほうけた。集中力が弱まっていくのだ。この変化を京太郎は一人で納得してしまった。

「あぁ、ハギヨシさんが言っていたのは、こういうことか」と


 京太郎の様子が変わり始めたところでディーが言った。

「ありがとう須賀くん。一応、中間地点は無事みたいだから、そこまで耐えてほしい」

 すでにディーはアクセルを踏み込んでいた。京太郎からエネルギーを受け取っているのだ。無駄な時間をすごすわけにはいかなかった。

そうして、思い切りアクセルを踏み込んだ。だからであろう。車はとんでもない勢いで加速を始め、あっという間に道だけで出来上がった異界を駆け抜けていった。

 
 京太郎のエネルギーを受け取ったディーの運転する車は異常な挙動を繰り返していた。アクセルを踏み込んでからすぐのことである。

車が飛んだりハネたりし始めたのだ。もともと異界の道にガードレールなどはない。当然信号機もなければ取り締まりの警察官もいない。かなり無謀な運転をしてもまったく問題ない。

 そんな道を走っているためディーの運転するスポーツカーは勢いに任せて道を飛び出して、まったく別の道に乗り移ってみたり、急激な方向転換をかけて道を進んでいくのだった。

ディー自体は安全運転をモットーにしているのだけれども、道が絡み合った異界の形が変わっているために、どうしても探索しながら移動しなくてはならなかった。

 また、急いでいるということがあるので、荒々しい運転になってしまうのだった。さながらジェットコースターのようだけれどもおそらくディーの運転する車のほうが、何百キロか速く動いているだろう。

 車の中はとんでもないうねりが起きていたが、まったく二人とも問題なさそうだった。

 運転席に座っているディーはせわしなく目を動かしていた。道を探しているのだ。道で埋め尽くされている異界の形を見逃さずに、自分の目的地に向けて走るためだ。情報収集に必死行い、自分の地図を作り上げていっていた。

 一方で、京太郎は目の前の景色をみているばかりだった。京太郎の右手は金属の箱の上に置かれているままである。何か手伝えるようなことがあればいいのだが、残念なことに京太郎にできることは何もない。

一生懸命になって運転しているディーに声をかけるというのは気が引けるわけで、京太郎にできることといえば、あちらこちらに伸びて、絡まっている道を眺めるくらいのものだった。

 がんがん先に進んでいくスポーツカーのなかでディーが京太郎に声をかけた。

「須賀くんのマグネタイトはさぁ。すごいね」

 耐えている京太郎の、気を紛らわせるためである。ディーは自分の運転しているスポーツカーがそれなりにエネルギーを使うというのを知っている。そして、京太郎が大体どのくらいのマグネタイト容量なのかというのも把握できている。

そのため、あまり長い時間京太郎に協力してもらっていたら、京太郎の調子が崩れるだろうという予想を立てられていた。そして、エネルギーが車に流れ続けているというのを考えれば、あまりいい気分ではないだろうというのも、予想ができたのだ。

そのため彼は何とかしてやりたいと思うようになり、声をかけたのである。

 声をかけてきたディーに京太郎がこういった。

「すごいって何がです?」

 さっぱりいいたいことがわからない京太郎は困っていた。あいまいな笑みを浮かべていた。

京太郎は、悪魔だとかサマナーが生きている世界の常識というのをさっぱり知らない。そのため、業界の当たり前だとかレアケースというのがわからない。

当然だけれどもマグネタイトがいいとか、悪いとかいう感覚もわからないのだった。



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