49: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/04/07(火) 04:37:35.19 ID:Joyq1BtQ0
何が言いたいのか理解できない困っている京太郎にディーがこういった。
「味だよ味。マグネタイトがブランデーみたいな味がするのよ」
ディーもまた困っていた。いまいち説明しにくい問題だったからだ。マグネタイトには人それぞれ微妙に違った匂いと味のようなものがあるのだ。
ディーはそれを説明しようと思ったのだけれども、自分の味覚だとか嗅覚について説明をするというのは難しく、またどうしてそうなっているのかという理屈を説明しようにもさっぱり解き明かされていない領域であった。
そのためはなしを振っておいて、自分が困ることになったのだ。
ディーがこういうので京太郎がいやな顔をした。そしてこういった。
「俺の仲魔も同じようなことをいってましたけど、マグネタイトに味なんてあるんすか?
あと飲酒運転はだめですよ」
マグネタイトに味がついているという話よりも車の運転中に運転手が酔っ払うといういやなイメージが浮かんだのだ。
マグネタイトで酔っ払うのかどうかというのはさっぱりわからない。しかし、酒によく似ているのだと本人がいっている。
ならば何かあっても不思議ではないだろうというように思ってしまう。心配しすぎとはいえないだろう。
特にデジタルスピードメーターが百キロをきらないままで移動し続けているのだ。たまったものではない。
事故の心配をしている京太郎を見てディーがこういった。
「酔っ払ったりしないから大丈夫だ。そんな顔しないでくれよ。たとえ話だよたとえ話。
まぁ、須賀ちゃんは契約主だからマグネタイトを受け取ることはないだろうけど、マグネタイトには微妙に個人差があっていろいろと特徴があったりするのさ。
まぁ、普通は香るレベルなんだけどね。花の匂いみたいな人もいれば、くさくてしょうがない人もいる。
ほんの少し香るだけでもかなり珍しいけど、須賀ちゃんみたいな酒みたいなのは始めてかな。しかも味覚にまで届いてる。
ハギちゃんの仲魔になって六年の間にいろいろなマグネタイトとであったけど、ここまで特殊なのは初めてだわ」
言い訳にしか見えなかった。実際いいわけである。問題ないとディーは言った。しかし不思議なことでどういう理屈なのか微妙にディーに変化がおき始めているのだ。内心ディーは思う。
「もしも、直接マグネタイトをやり取りしていたら俺でもやばかっただろう」
なんとも微妙な空気が流れ始めた。それから少したち、車が大きく揺れた。道を大きく外れて、別の道に飛び移ったのだ。
映画のスタントでやるような動きそっくりだった。しかししょうがないことである。何せ別の道に飛び移らなければ、行き止まりになるのだ。
この行き止まりの先には何もない。大きな穴があるだけだ。光の届かない深い穴。奈落にでも続いているのだろう。
もしも車で突っ込んでいったとしたら、後は落ちていくだけだった。それを回避するためには、少しばかり無茶をする必要があった。
無理な動きを連続して続ける車の中で京太郎はディーに質問をした。少し気になったからだ。
「ディーさんは人の世界で長くないんですか?」
世間話をするような調子である。ディーの話を聞いていると、長い間人間の世界で生きてこなかったような言い方をしたように聞こえたのだ。
特に六年間しかマグネタイトの味について経験がないというのだから、見た目とずいぶん違っているではないか。
ぱっとみたところディーは二十代後半である。スーツを着ている姿は決まっている。
まったく何もエネルギー補給をせずにここまで生きてこれるわけがない。
もちろん、アンヘルのようなタイプということも考えられる。つまり大本から情報だけを移されて完成して生まれてきたタイプの悪魔だ。
京太郎はディーもその類ではないかと考えたのだ。
京太郎が質問をするとディーは少しもごもごとしてから応えた。
「鋭いねぇ。でも、須賀ちゃんが思っているのとは少し違うかもね。
俺はもともと人間だったのよ。で、いろいろとあって今は魔人、といっても正体不明の存在って意味だけどね。
人間でもなければ悪魔でもないってタイプ。
普通の人間だったときはサラリーマンで、ドライブが趣味だった。ハギちゃんとは同級生だった」
ディーはできるだけ明るく振舞っていた。自分が魔人という存在なのだというのはあまり気にしていることではないのだ。
しかし、この話を人に聞かせると大体が、申し訳なさそうな顔をする。暗い顔をして無遠慮だったというような反省をするのだ。それがどうにも、嫌いだった。
ディーは何も困ったことなどない。困ったとすれば、感覚がとがりすぎて一ヶ月ほど面倒だったことくらいである。
申し訳なさそうにされるのが、困るのだ。だから、明るく振舞うのだ。あまり暗くなってくれるなよと。
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