過去ログ - 京太郎「限りなく黒に近い灰色」
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50: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/04/07(火) 04:40:23.92 ID:Joyq1BtQ0
ディーの答えを聞いて京太郎は表情を曇らせた。そしてこういった。

「すみませんなんか、聞いちゃいけないことを」

何かあったのだとすぐに察せられたのだ。悪魔たちが存在し悪魔たちと契約する者たちがいる世界だ。

人に話せないような薄暗い道を歩くこともあるだろう。

京太郎は、自分自身がそういう道を歩いてきたものだから、無遠慮に踏み込んだことを申し訳なく思ったのだ。

 申し訳なさそうにする京太郎に、ディーが応えた。

「ぜんぜん、たいしたことじゃないさ。魔人になったからといって死んだわけじゃない。むしろぴんぴんしてる。

 確かに立場はハギちゃんの仲魔だ。でもきっちり給料が出てる。税金もきっちり払っているし、親に仕送りもできてる。

 それに趣味だったドライブを全力で楽しむことができて退屈しない。まぁ、ちょっといろいろなところと、もめたけど楽しい六年間だった」

 嘘はない。魔人というよくわからない存在になってしまったけれどもしっかりと生きている。そして、それなりに満足した生活を送ることができている。

とくに自分の趣味だったドライブを全力で行えるというのはサラリーマンをしていたときよりもずっといいだろう。

サラリーマンだったころにはドライブに行くような余裕はなかったのだから、いくらかましである。だから、嘘ではない。

 ディーが応えるのを聞いて京太郎がわらった。ディーがずいぶん楽しそうに笑ったからだ。ディーに釣られて京太郎も笑っていた。


 少し景色が開けてきて、遠くに大きな山が見え始めたところでディーが京太郎にこういった。

「まぁ、なっちゃったらどうしようもないからね。楽しまなくちゃ。

今は感覚がとがって麻雀が面白くないかもしれないけど、一週間も我慢すれば楽しめるようになるよ。ハギちゃんの見立ては大体当たるからね」

 麻雀の話をしたのは京太郎の趣味というのが麻雀だと思っていたからである。麻雀の話がしたいわけではない。

ただ、趣味の話をして、暗くなった空気を変えていこうとしたのだ。

 京太郎は少し困った。左手で自分の頭をかいた。そしてこういった。

「一週間……ですか」

喜んではいなかった。

 確かに京太郎は麻雀部に所属している。しかし麻雀に京太郎は重きを置いていなかった。本当に熱中できているのかと問われたら、素直に熱中していると答えられないだろう。特に麻雀はもういいと思ってしまっている。鋭くとがった感覚が何もかもをはっきりとさせすぎた。

その体験は退屈を感じさせるのに十分だった。

 しかし悲しいとは思っていない。惜しいとも思っていない。

仮に力を発散できるようになり、力を抑えられるようになったとしてもまた昔のように楽しめるかといえばありえないだろう。


 困っている京太郎に、ディーがいった。

「まぁ、そのうちよくなるさ。そうしたらやってみればいい。

 そろそろ、中間地点に着くよ、そこで少し休憩しよう。須賀ちゃんのおかげで、かなりショートカットできた。

ありがとう。後は普通に走れば間に合うはず。これならお嬢にどやされなくてすむ」

 ディーは少しだけ微笑んでいた。京太郎の困っている様子というのが、青春しているように見えたのだ。そうして

「自分が少年だった時代にもこういう風に悩んだことが合ったのではないだろうか」

このように考えてそろそろ自分もおっさんなのだなとおかしくなった。



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